2019 Fiscal Year Research-status Report
原子層半導体のボトムアップ成長によるラテラルホモ接合の実現
Project/Area Number |
19K15403
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
岡田 光博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (10824302)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / ガスソースCVD / ラテラルホモ接合 / ドーピング |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、気体原料によるWS2原子層合成技術の確立をまず行ってきた。各種合成条件検討の結果、塩化ナトリウムを系中に加えることで640度という比較的低温の合成温度ながらも10マイクロメートルほどの単層WS2結晶を得る条件を見出した。得られた結晶のサイズは既報の気体原料合成条件と比べ50倍程度大きい。また、得られた結晶は既存の固体原料で得られたWS2とそん色ない発光特性・半導体特性を示しており、十分高い品質を持っていることを示している。 また、本研究において、塩化ナトリウムを系中に加えることの影響に対するより詳細な考察を行うことができた。塩化ナトリウム等アルカリハライドを遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)合成系に加えると、得られる結晶サイズが1-2桁程度大きくなることが古くから知られている。固体原料系での合成条件検討においては、アルカリハライドの効果は中間生成物の生成による原料のマスフラックス増大やラテラル成長の促進であるとの考察がなされている。本研究においては、気体原料という十分なマスフラックスを持った原料を用いながらもアルカリハライド添加によって結晶サイズに向上が見られたことから、アルカリハライドのTMD成長における効果はマスフラックス増大・ラテラル成長促進の双方にあると判断した。 以上の結果はScientific Reports誌に2019年11月に掲載された。 また、同時にホールドープされたMoS2の合成についても技術開発を進めている。使用する原料と合成条件の検討により、1段階の合成でp-nラテラルホモ接合を内包した単層MoS2の合成に成功し、接合部分において整流特性を持つことを確認した。今後更なる測定を進め、令和2年度にて論文投稿を目指したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、気体原料を用いた化学気相成長(CVD)におけるマイクロメートルサイズのWS2原子層の合成技術確立に成功しており、Scientific Reports誌へ掲載されている。得られた結晶は物性探索に対し十分耐えうるサイズと品質を持っており、今後のドーピング技術や気体原料を用いた原子層物質のCVD合成技術開発に貢献できると考えている。これは当初予定していた進捗通りの結果であり、本研究の骨子となる技術の入手に成功している。 また、これとは別にMoS2に対する元素置換ドープによるp型化技術の開発を行ってきた。令和元年度において、適切な蒸気圧差を持ったモリブデン源・ドーパント源を選定してCVD合成を行うことにより、1段階での合成で局所的なアクセプタードープがなされた単層MoS2結晶、すなわち単層MoS2 p-nラテラルホモ接合を合成する技術の開発に成功した。得られた結晶は、結晶内において局所的に縮退したp(p+)型、通常MoS2でよく見られるn型の半導体特性を示すこと、並びにp+, n型領域界面において明確なダイオード特性が観られていることから結晶内に局所的にアクセプターがドープされ、p+-n接合を形成していることを示唆している。この成果もまた当初予定にある『原子層ラテラルホモ接合』の作製を達成したと考えている。 以上の結果より、令和2年度以降における元素置換ドープによる原子層ラテラルホモ接合に対する更なる物性探索および別の元素ドをドープするための基盤技術の確保、そして元素置換により原子層厚のラテラルホモ接合そのものが実現可能であることの証明をこの1年で十分達成することができたと考え、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずSPring-8を用いた超高空間分解能のXPS測定を行い、原料として加えたアクセプターによってp型の動作が観られているか、結晶中のアクセプターの分布がどうなっているかの確認を行うとともに、p-n接合の特性についてケルビンプローブフォース顕微鏡や走査トンネル顕微鏡/走査トンネル分光法等のプローブ顕微鏡を用いて調べることを進めていき、年内の論文原稿を目指す予定である。 そして、今後は得られたドーピング技術を用いて電界効果トランジスタや発光ダイオードといった、単層原子層膜ラテラルホモ接合ならではの応用へと進めていく予定である。 また、同時に可能であればWS2に対する局所的なNbドープとその物性探索を行いたい。MoS2に対してのアクセプタードープは、ドープする元素の種類によっては高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡による観察や、エネルギー分散型X線分光分析による構造・組成分析が困難であるという問題点がある。一方で、置換対象の元素がWであるWS2であればその原子番号の差ゆえにドーピング量が上述した電子顕微鏡関連の技術によって直接見積もることができるようになるため、ドーパントとしての挙動がより詳細な議論が可能になると考えている。 また、同時に気体原料の合成についても、気体原料ゆえ原料の供給温度の制限がなく合成温度を下げることが可能であることから低温合成技術の開発が可能ではないかと考え、ラテラルホモ接合に加えこの低温合成技術の開発を行っていく予定である。まだプリミティブな段階ではあるものの、報告した640度より更に低温でもWS2結晶の合成が可能であることを確認しており、今後更なる条件の探索を行いより大面積な結晶が得られる条件を探索していきたい。
|
Research Products
(5 results)