2021 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンサンドイッチ構造を用いた科学反応の直視解析法の開発
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19K15404
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Research Institution | Japan Fine Ceramics Center |
Principal Investigator |
佐々木 祐生 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (80808668)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グラフェン / グラフェンサンドイッチ / 電子顕微鏡観察 / 大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、ALDRによる化学反応その場観察実現に向けて、グラフェンのCVD合成法の改善、h-BNのCVD合成法の改善、グラフェンサンドイッチを使った微生物の電子顕微鏡観察への応用を行った。 ここではグラフェンサンドイッチを用いた大腸菌の観察について報告する。これまでに開発してきたグラフェンサンドイッチ技術を、未固定の大腸菌の電子顕微鏡による観察技術へ応用した。今回、昨年度までに開発してきた技術を応用しスペーサーとして穴あき薄膜をグラフェン層間に挿入する手法を採用した。今回使用したスペーサーはTEMグリッド上の支持膜として使用されるQuantifoilを採用し、その厚みは10 - 25 nmであった。また、電子顕微鏡によって生細胞を観察するにあたり、今回は大腸菌液にあらかじめ生死判別染色(LIVE/DEAD@細菌生存率アッセイ)を行い、その内包操作をなるべく暗所で行うことで電子顕微鏡観察を受けた大腸菌の生死を調べた。 走査型電子顕微鏡による観察の結果、大腸菌は穴あき薄膜と共にグラフェンサンドイッチ内に閉じ込められている様子が確認できた。化学固定なし、かつ重金属染色なしでも十分なコントラストで大腸菌の表面構造が観察された。しかしながら、大腸菌が動き回る挙動は見られず、薄膜やグラフェンによって固定されているようであった。また、蛍光顕微鏡による観察の結果、電子線照射前は全体的に死細胞標識染色による赤色発光と生細胞染色の緑色発光が同等であった。これは一般には死細菌であることを示しているが、グラフェンサンドイッチ作製操作中の露光が避けがたく、緑色発光が電子線照射前にすでに消光し始めていることによる結果であった。走査型電子顕微鏡観察後の試料では電子線照射領域において赤色染色の消光が著しく、少なくとも本染色では生死判別が困難であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ALDRの作製に必要な要素技術は順調に揃ってきている。グラフェンおよびh-BNのCVD合成条件の最適化とそれらを組み合わせたBCN(グラフェンとh-BNの複合材料)の合成法、グラフェンサンドイッチ作製技術はこれまでの検討によって実用可能なレベルにまで到達している。 これまでCVD合成したh-BN膜のドメイン同士の結合が悪く、転写などの工程で膜が破れることで収率に大きな課題があった。ALDR自体はh-BNに固執する必要はなく、h-BNの低い電子線耐性が重要であることから、異なる条件のCVD合成を連続して行うことでh-BN同士をグラフェンで繋いだBCNを作製し、これを用いることでALDR作製の収率改善を試みる。h-BNの代わりにBCNを用いた場合でも電子線耐性はグラフェンと比べて低く、ALDR開発の一番の目的である「隔膜の破壊による自分の意図したタイミングでの化学反応の開始とその場観察」は十分に可能である。BCN(もしくは膜質を改善したh-BN)を用いたALDRの作製が安定すれば、これまで開発してきた技術を集約することでALDRによる化学反応観察は問題なく達成できる。 以上のことから、進捗は順調に進捗していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
直近の課題としてALDR作成時のh-BN膜の脆さが挙げられるが、上述のBCNの採用によってその収率の向上(再現性の改善)と作製難度の低減を図る。 また、ALDRによる電子顕微鏡内における化学反応の開始とその場観察を行い、実際に機能するかどうかの確認を行う。実際に観察を行う反応として、まずは塩酸と水酸化ナトリウム水溶液による中和反応や、金属銅の溶解反応、酸化反応などを想定している。またBZ反応の観察などを行い、形態的な変化だけではなく元素分析によって生成物の同定を試みる。 また、これまでの研究成果をまとめ、論文掲載や学会発表による周知活動を行う。
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Causes of Carryover |
次年度にALDR作製とそれによる化学反応のその場観察を行うため、試薬の購入費などを次年度に回す必要ができたため。
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