2019 Fiscal Year Research-status Report
有機薄膜トランジスタにおける絶縁膜界面トラップのキャリアイメージング解析
Project/Area Number |
19K15432
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松岡 悟志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60826535)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機電界効果トランジスタ / 絶縁膜 / トラップ密度 / ゲート変調イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
有機電界効果トランジスタ(OFET)は、次世代電子デバイスへの応用が期待され盛んに研究開発が行われている。金属-絶縁体-半導体の積層構造から成るOFETは、有機半導体層の絶縁体界面近傍に電荷キャリアが蓄積することで動作する。そのため、絶縁層に用いる誘電体材料、または表面に露出する化学官能基に依存して、電気伝導特性が大きく変化することが知られる。本研究では、独自の評価手法である顕微ゲート変調イメージング(GMI)法による電荷キャリア可視化技術を用いて、OFETの絶縁層表面状態を系統的に測定し、特性向上や伝導機構に関する新たな知見を得ることを目的とする。2019年度は、誘電体材料による効果と、光照射による表面改質について検討した。 まず、絶縁層に4種類のポリマー誘電体材料(Cytop、パリレン、PMMA、PVP)を用いて、単結晶性半導体結晶で構成されるOFETについて測定を行った。低誘電率・高撥水なCytop膜を用いた場合、非常に優れた電気伝導特性を示すとともに、絶縁膜材料の比誘電率の増加およびトラップ密度の上昇に伴う電気伝導特性の低下が観測された。また、Cytop膜についてGMI測定を行うと、チャネル内に横方向の電界を印加した飽和領域で得られた光信号強度が、印加していない線形領域に比べて大幅に増強された。この光応答の増幅効果は、絶縁膜界面のキャリア運動性と密に相関し、各誘電材料に依存して増幅量が変化することが初めて明らかになった。 次に、高撥水性Cytop絶縁層に対して真空紫外光(VUV)照射による表面改質を行い、光応答の変化を調べた。VUV照射されたCytop膜では表面にカルボキシ基(COO-)が生成され、表面状態の変化を伴う伝導特性とGM信号強度の低下を観測し、絶縁膜表面がキャリア運動性と光応答に大きく影響することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2019年度)は、有機電界効果トランジスタ(OFET)における半導体-絶縁膜の界面状態を検討するために、誘電体材料の効果と真空紫外光照射による表面改質について、顕微ゲート変調イメージング(GMI)法による研究を行った。 まず、異なる4種類のポリマー誘電体(Cytop、パリレン、PMMA、PVP)を用いた、単結晶性有機半導体層を有するOFETを作製した。その電気伝導特性は、誘電体材料の誘電率および表面の濡れ性に依存し、低誘電率・高撥水なCytop絶縁膜で優れた結果が得られた。このような高特性のデバイスでは、GMI測定で得られる光応答が、チャネル内に横方向の電界を印加したことで非常に大きな増幅効果を示すことが、本研究により初めて明らかとなった。 一方で、上記のような特徴を持つCytop膜について、真空紫外光(VUV)照射による表面改質を行い、その変化について検討した。VUV照射されたCytop膜は、膜表面に生成するカルボキシ(COO-)基により親水化される。照射時間に依存した膜表面の親水化とともに、電気伝導特性とGMI測定による光応答強度が徐々に低下してくことを明らかにし、さらに、光照射後のCytop膜に熱アニールを行うと、表面改質効果が回復することが分かった。これは、膜表面で生成したカルボキシ基により界面の帯電による特性変化であり、熱アニールにより表面の電荷が膜内に撹拌されたと考えられる。 上記の2つの実験から、OFETの絶縁膜に用いる誘電体材料や表面改質によるキャリア運動性の違いが、顕微ゲート変調イメージング測定に強く反映されることを見出し、キャリア観察に有効であることを確認した。本研究により得られた成果について、現在、投稿論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度では、OFETの絶縁層に用いる誘電体材料やその表面改質によるキャリア状態の変化を観測することを主眼として研究を進めた。OFETの電気伝導はチャネル層を形成する半導体-絶縁体界面の状態に大きく依存するため、半導体層に構造欠陥が極めて少ない単結晶を用いて絶縁層の影響をより明確にした。 次年度では、半導体層の結晶性を含めた、キャリア状態の観察を行う予定である。具体的には、近年の有機半導体材料・プロセス技術の進展により、良好な電気伝導を示し大気安定な有機半導体材料による単結晶薄膜デバイスが多数報告されており、それらの材料を用いたデバイス構築および測定を通して、半導体層の結晶性の違いによる界面・キャリア蓄積状態の変化を調べる予定である。 これらの材料にGMI測定を適用するに当たって問題となるが、材料の光吸収領域である。近年開発される有機半導体材料の多くが、比較的大きなバンドギャップに由来した、近紫外域吸収となる。そのため従来の可視域を対象とした測定装置をそのまま適用できなかった。そこで現在、紫外域に対応した光学系および検出器の購入を検討しており、これを用いた測定を予定している。 また、OFETのチャネル層に蓄積したキャリアの観察手法としてよく知られる、ケルビンプローブ顕微鏡や電子スピン共鳴測定と組み合わせて、結晶性を制御したOFETについて半導体-絶縁膜界面のキャリア挙動をより詳細に調べる予定である。
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