2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K15435
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
後藤 穣 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (80755679)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピントロニクス / ダイオード効果 / 熱誘起磁気異方性変化 / ボロメーター / スピントルク自励発振 / 磁気トンネル接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、磁気トンネル接合中の熱を利用することで、ボロメーターに匹敵するほどの超高感度なダイオード検出感度の実現を目指している。その結果、2019年度に「①ダイオード検出感度 3.37×10^6 V/Wを実現」「②巨大ダイオード効果のメカニズムにスピントルク自励発振が効いていることを実験的に解明」「③熱による磁気異方性変化の大きさ2.1 uJ/Wmを実現」を達成した。 ①では、研究提案時の目標2.4×10^5 V/Wの10倍以上の値を得た。この値は従来報告されている最大のスピントルクダイオード検出感度2.0×10^5 V/W(L. Zhang, Appl. Phys. Lett, (2018))と比較しても10倍以上大きい。また、赤外線周波数領域で用いられる既存の非冷却型ボロメーターの感度10^5~10^6 V/W(例えばS.Y.Chiang, Nano. Lett, (2020))とも遜色なく、マイクロ波周波数帯でこのような巨大な検出感度は今回が初めての報告である。 また、このような高い検出感度の原因はスピントルク自励発振が寄与していることを実験的に明らかにした。本実験で得られたメカニズムはこれまで論じられておらず、新しい学術的知見ももたらすものである。 熱誘起磁気異方性変化の大きさを評価するために、単位面積当たりのジュール熱と磁気異方性変化の比を用いた評価手法を提案した。その結果、本試料における熱誘起磁気異方性変化は2.1 uJ/Wmであることが分かった。この値は、従来研究における値0.9 uJ/Wm(M. Goto, Nat. Nanotechnol, (2019))の2倍以上であり、この大きな効果が巨大なダイオード検出感度につながったと考えられる。 以上の結果と関連する研究を2019年秋と2020年春の国内学会において発表し、論文作成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初の計画以上に進展している。MgOキャップ膜厚に対する熱誘起磁気異方性変化を評価したところ、膜厚の増加に対する効果の増大が確認された。その中で最大の効果を持つ試料のダイオード検出感度を評価したところ、3.37×10^6 V/Wを得ることに成功した。これは研究開始当初目指していた商用の非冷却型ボロメーターの値2.4×10^5 V/W(https://www.irsystem.com/product/bolometer/)の10倍以上の大きさとなる。また、予想以上に増大した原因を調べたところ、スピントルク自励発振が生じていることが明らかとなった。加えて、熱誘起磁気異方性変化の大きさを特徴づける物理量を新たに提案した。その大きさ2.1 uJ/Wmは従来研究の2倍以上となった。これらの一連の研究はこれまでに無いデバイス特性を実現しただけでなく、スピントルク自励発振と熱誘起磁気異方性変化が大きな非線形ダイオード効果を生じるという新しい現象を得た。これはこれまで考えられてこなかった現象であり、本研究分野に新しい知見を与える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の結果を踏まえて、2020年度は「①これまで得られた結果の論文化」「②熱設計の更なる効率化による熱誘起磁気異方性変化の向上」「③雑音等価パワーの低減に関する指針を得る」を進める。 まず、これまで得られた結果を論文として発表する。すでに一部の論文に関しては投稿中である。 また、キャップ層の構造を変えることで熱設計を最適化し、熱誘起磁気異方性変化を向上させる。このことにより、さらに大きなトルクを発生させることができ、ダイオード検出感度の向上につながると期待される。熱駆動型の素子では金属|絶縁体界面が熱抵抗に大きく寄与していることが示唆されているため、この界面の数を増やすことで更なる効果の増大が期待される。 また、2019年度の実験を通して、新たな課題も明らかとなった。それは、雑音等価パワーの低減である。今回の実験で単位パワーあたりに発生する電圧は非常に大きな値が得られた一方、より微弱なマイクロ波を検波するにはそれだけではなく、雑音等価パワーを低減する必要がある。これに関しては、本素子における雑音等価パワーの評価および、その低減を行うための指針を得る。
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Research Products
(3 results)
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[Presentation] Microwave emission using two magnetic tunnel junctions with positive gain2019
Author(s)
Y. Yamada, M. Goto, T. Yamane, N. Degawa, T. Suzuki, A. Shimura, S. Aoki, J. Urabe, S. Hara, S. Miwa, and Y. Suzuki
Organizer
The 80th Japan Society of Applied Physics (JSAP) Autumn Meeting 2019