2019 Fiscal Year Research-status Report
ディラック電子をもつペロブスカイト酸化物ヘテロ接合によるトポロジカル超伝導の実現
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19K15448
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小畑 由紀子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任助教 (70826255)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 薄膜作製 / 電子ドープ / 光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ペロブスカイト型酸化物BaBiO3(BBO)において電子ドープによりワイドギャップトポロジカル絶縁体を実現し、さらにホールドープ型酸化物高温超伝導体Ba1-xKxBiO3とのヘテロ構造を用いてトポロジカル超伝導を実現することである。そのため、分子レベルで構造を設計・合成できるレーザー分子線エピタキシー(MBE)を用いて薄膜を作製し、放射光を用いたその場での角度分解光電子分光(in-situ ARPES)を用いてディラック電子の存在及びその超伝導状態を直接検証する。 初年度では、ノンドープのBBO薄膜作製を行い、高輝度放射光分光を用いた電子状態の評価を行った。先行研究では、すでに良質なエピタキシャル成長がBaBiO3/SrTiO3(STO)ヘテロ構造で報告されていたため、STO基板を用いて単結晶薄膜を作製した。X線回折(XRD)によりBBO単相薄膜が得られたことを確認した。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた薄膜表面における渦上のテラス構造の観察や、反射高速電子線回折(RHEED)におけるストリークパターン、低速電子線回折(LEED)における明瞭な回折スポットの観察により、2次元的に平坦にエピタキシャル成長したBBO薄膜であると評価した。 そして、BBO薄膜に対しその場でのARPESを用いて電子状態を観測した。フェル準位付近の電子構造は先行研究の結果を比較的よく再現したことを確認した。続いて、ARPESの測定室に連結した準備室においてK蒸着によるBBO薄膜表面への電子ドープを試みた。しかし、蒸着前に確認されていた電子構造が消滅していた。また、Bi 4fの内殻準位スペクトルにおいてもピーク位置に変化はなく、電子ドープはされなかったことを確認した。よって、他の手法によるBBOへの電子ドープが必要であると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の計画である、電子ドープを用いたBBOにおけるトポロジカル絶縁体状態の実現が達成されていないため、進捗はやや遅れていると判断した。当初は酸素イオンのフッ素イオンによる元素置換を用いたBBOへの電子ドープを計画していたが、MBE装置へのフッ素ガス導入は所属先研究機関の安全管理の規定により認可を得ることが厳しいと判明した。また、BBO薄膜の最表面へのK蒸着による電子ドープ効果も期待できないことが確認された。よって、電子ドープ代替策の探索が次年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の課題である、BBOへの電子ドープ代替策として、酸素欠損を用いた手法がある。代表例として、強相関酸化物VO2において電解液との接触界面で発生する電界効果により酸素欠損が生成されVO2への電子ドープが起こることが報告されている[J. Jeong, et al., Science. 339, 1402-1405. (2013).]。同様な手法はまだBBOで報告はないため、試料作製の条件探索を行う。 一方で、本研究の根本的な研究課題である近接効果によるトポロジカル超伝導体の良質な接合界面作製のための材料選択範囲拡大を達成するため、BBOなどの酸化物以外の材料探索も重要となる。近年、鉄系超伝導体FeSeにおいてホールドープ(p型)によるトポロジカル絶縁体状態の発現が予測された[Z. F. Wang, et al., Nat. Mater. 15, 968-973. (2016).]。超伝導体FeSeは電子ドープ側では超伝導状態(n型)であるため、ホールドープしたFeSeとのpn接を合用いたトポロジカル超伝導実現が可能となる。そこで第一段階として、MBEあるいはパルスレーザー堆積法(PLD)を用いてSe欠損などでホールドープさせたFeSe薄膜の作製を行い、輸送特性評価によるホールドープ効果観測を目指し研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
初年度に代表者の所属研究機関異動に伴う研究実施環境の変化があったため、必要な設備や消耗品の見積もりと使用計画の再調整を行った。次年度は設備費として角度分解光電子分光装置で超高真空を維持するためのスクロールポンプ一式2台(約1,600,000万円)と、成果発表のための国内旅費(約130,000万円)で使用を計画している。
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