2019 Fiscal Year Research-status Report
光異性化に先立つタンパク質構造変化の誘起機構の解明
Project/Area Number |
19K15504
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田原 進也 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (00783060)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 微生物型ロドプシン / 再構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は試料調製法の確立、すなわち人工レチナール発色団をセンサリーロドプシンに高効率で導入する方法を検討した。研究計画当初は、光励起によるポリエン鎖の電荷分布変化の大きさが異なる人工レチナール発色団を用いた実験を計画していた。この計画についてイスラエルのワイツマン科学研究所のMordechai Sheves教授と議論したところ、計画当初とは異なる、光異性化を起こさない人工レチナール発色団を用いた実験を提案して頂いた。これは当初計画していたものと相補的な実験である。しかも同教授には人工レチナール発色団試料を提供して頂けることとなり、共同研究に発展した。 まず天然のレチナール発色団を持つセンサリーロドプシンを合成した。既報ではセンサリーロドプシンを大腸菌BL21(DE3)株によって発現させていた。本研究では細胞毒性を考慮し、大腸菌C43(DE3)株によって発現させたところ、収量が従来の2倍程度となった。その後、センサリーロドプシンの溶液にヒドロキシルアミンを加え、天然発色団をタンパク質から解離させた。これによりセンサリーロドプシンのアポタンパク質を調整した。そこに人工レチナール発色団を加え、一週間程度暗所で反応させた。人工レチナール発色団のアポタンパク質への導入効率を向上させるため、天然発色団を解離させる反応時間を可能な限り短縮したり、人工発色団導入時のアポタンパク質濃度を非常に高くする必要があった。条件検討の結果、90%以上の発色団導入効率を達成できた。その後、精製を行い、収率が50%程度(天然発色団を解離させる前のセンサリーロドプシンのタンパク質量を100%としたとき)となった。今後はタンパク質合成を進め、時間分解紫外共鳴ラマン分光測定を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、本年度中にピコ秒時間分解紫外共鳴ラマンスペクトルの測定を完了する予定であった。しかし本測定に足るタンパク質量を得るためには、合成条件の検討が必要であることが分かった。センサリーロドプシンに人工レチナール発色団を導入する手法は確立していたものの、導入効率は未評価であった。実際に実験を行うと、導入効率は実験の様々なパラメーターに依存しており、高い導入効率を達成するための条件最適化を行う必要があった。特に天然発色団を解離させる反応時間を可能な限り短縮したり、人工発色団導入時のアポタンパク質濃度を非常に高くする必要があった。以上の理由から、スペクトル測定に至らず、進捗状況は当初計画と比べてやや遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はセンサリーロドプシンに人工レチナール発色団を高効率で導入する手法を確立した。今後は人工発色団を持ったセンサリーロドプシンを大量合成する。そして野生型と人工発色団を持ったセンサリーロドプシンのピコ秒時間分解紫外共鳴ラマンスペクトルを測定する。これらのスペクトルを比較し、発色団光異性化と発色団電荷分布変化が誘起するタンパク質構造変化について議論する。 上記に加え、ミリ秒時間分解紫外共鳴ラマンスペクトルの測定も計画している。センサリーロドプシンはミリ秒オーダーの寿命を持った中間体を生じ、これが下流タンパク質と相互作用することで生理機能を発現する。この中間体のタンパク質構造と、光異性化を起こさない人工発色団を持つセンサリーロドプシンのミリ秒領域のタンパク質構造を比較する。この比較により、光異性化がセンサリーロドプシンの生理機能の発現に必須かどうか検証する。
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Causes of Carryover |
研究計画当初は人工レチナール発色団を試薬会社から購入する予定であった。しかしイスラエルの研究グループにこの研究計画を相談したところ、人工発色団を提供してくださることとなった。このため、人工発色団に充てる予定であった費用に余剰が生じた。翌年度は人口発色団を持つセンサリーロドプシンを大量合成する必要があるが、収率が50%程度(天然発色団を解離させる前のセンサリーロドプシンのタンパク質量を100%としたとき)であることが判明したため、従来よりも多くのタンパク質合成試薬が必要になると判断した。以上の理由から次年度使用額が生じた。 来年度使用額の大部分はタンパク質大量合成のための試薬に用いられる。残り一部は分光測定に必要となる消耗品に充てられる。
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