2019 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of mechanisms of thermally activated delayed fluorescence using multi-excitation transient spectroscopy
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19K15508
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
宮田 潔志 九州大学, 理学研究院, 助教 (80808056)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 機能性発光分子材料 / 熱活性遅延蛍光 / 超高速分光 / 時間分解赤外分光 / 有機EL / 時間分解発光分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱活性化遅延蛍光を示す分子のうち、特に注目されているカルバゾール-ベンゾニトリル誘導体に注目して研究を進めた。励起する振動状態を見定めるため、これまでに測定が完了していた4CzIPN, 4CzBN, 2CzPN, o-3CzBNに加えて、5CzBN、o-3CzIPNといった誘導体についても調査範囲を拡充し、時間分解赤外分光によって励起状態の振動スペクトルを観測した。励起後に生じる一重項励起状態から三重項励起状態に項間交差する過程での振動スペクトル変化の有無に注目したところ、熱活性化遅延蛍光活性であった化合物群では項間交差に伴うスペクトル変化が小さいという相関を得ることができた。これは、励起状態での分子の立体構造変化が逆項間交差過程に大きく影響を与えていることの一般性を示した結果である。 また、o-3CzBNについては熱活性化遅延蛍光能が溶媒に依存することが知られている。そこで、励起状態の立体構造の溶媒依存性を調べることで高励起状態と励起状態における構造変化の二つの観点から機能発現の起源を検討した。低誘電率のトルエン中と、中程度の誘電率のテトラヒドロフラン、高誘電率のアセトニトリルといった三種類の溶媒環境で時間分解赤外分光を行い、得られた振動スペクトルを比較した。一重項励起状態、三重項励起状態の量状態についてどの溶媒についても同様の振動スペクトルを示すことが明らかになり、立体構造には溶媒依存性がないことが示唆された。一方、量子化学計算により電子励起状態のエネルギー準位を調べたところ、誘電率に依存して励起状態間のエネルギー差が大きく変化することが分かった。従って、o-3CzBNについては熱活性化遅延蛍光の機能発現に高励起状態が密接に影響していることが明らかになった。この成果は、今後より良く節的な実験を展開する上で重要な基礎的知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目の目標であった温度可変セルを導入した高速分光装置の構築と、新たにpush光として用いる光路の構築はおおむね完了している。温度可変セルとしては液体窒素冷却の小型の低温セルを整備し、小型である特徴を活かして時間分解発光分光、時間分解赤外分光どちらにも応用できる実験システムを構築することに成功した。3つのパルス光のタイミングを正確に制御するための遅延光路の整備も進んでおり、信号変化を必ずしも検出に至っていないものの、制御システムの構築もほぼ完了している。 また、並行して進めていた、ターゲットとしているカルバゾール-ベンゾニトリル誘導体に関する基礎的な知見(ドナー部位が高密度に配置されているカルバゾール-ベンゾニトリル誘導体の励起状態の振動スペクトル、励起状態における立体構造変化の誘電率依存性)についても順調に知見を積み上げることができ、既に学術論文として投稿もできている。また、温度可変時間分解発光システムは定常的に運転する目途が経っており、得られた発光スペクトルの時間変化の温度依存性から二重発光などの複雑な励起状態ダイナミクスを有する機能性発光分子の励起状態のポテンシャル面に関する活性化障壁等の議論が進んでいる。こちらの知見に根差した研究成果も学術論文にまとめつつある状況であり、順調に成果を積み上げつつある。 一方、pump-push分光の光路は組むことができたものの、占有数が限られている励起状態のさらに微小な変化を捉えるための検出系は必ずしもまだ最適化できていない。しかし、予備実験として行った基礎物性のデータ収集が滞りなく進み、既に対外的な成果としてまとまりつつあることを考えると、順調に計画が進行していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きターゲット分子の基礎データを集めながら、システムの構築を完了させる。特に、光学系は既に構築が完了している部分が多い一方で、微小な信号変化を検出するために検出系に更なる工夫を施す必要性が明らかになっている。具体的には、push光による変化にフォーカスするときはpush項の光路にレーザーと同期させた光学チョッパーを挿入し、チョッパーの位相を参照信号としてロックイン検出を試みる。 まずは検出領域が可視光領域にあり高感度の検出が可能と考えられる蛍光強度の二段階目の励起による変化の観測を行う。この時、超短パルスによる生じる検出器の過渡的な電圧変化を維持できるよう、ボックスカー積分器も併用する。検出素子自体も、感度が極限的に高い光電子増倍管を採用する。信号の検出が可能になった段階で、①pump-push光間の時間遅延を制御しながら信号強度変化、②push光の励起エネルギー依存性を調べ、高次励起状態が一重項励起状態の過渡的な生成をもたらすかどうか判断する。この実験を、これまでに基礎データを蓄積した分子群の中から観測に向いた分子を選定したうえで系統的に調べる。 特に大きな変化が見られた分子に対して、赤外領域の吸収スペクトルが二段階目の励起で変化するかどうか調べる。この方法では、三重項励起状態を参照とした変化分のスペクトルが観測されるため、原理的にはより直接的な高次励起状態の立体構造情報が得られる。検出が極力好感度に行えるよう、MCT検出器を駆動するプログラムのスペクトル計算アルゴリズムの改良も試みる。 得られた知見は段階的に対外発表や学術論文にまとめ、着実にアウトプットを続ける。特に材料の設計指針に関わる知見は材料合成の共同研究者にもリアルタイムで知見を共有し、効率的な材料開発にフィードバックしていきたい。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた光学遅延ステージ等の装置・物品の中に他のプロジェクトと教養で使用するものが含まれており、他の予算を使って効率的に物品の整備ができたため当初計上していた予算よりも出費を抑えることができた。レーザー装置のメンテナンス費など、今後予測が難しい状況の変化で急な出費が生じるリスクを考えると、強引に予算を消化するよりも次年度使用へと切り替える必要があった。実際にレーザーの部品の老朽化は避けられないため、次年度には状況に応じて超短パルスレーザー内のピッカーボード、電圧ドライバ等の電子部品を新調する予定である。
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[Journal Article] Liquid-like dielectric response is an origin of long polaron lifetime exceeding 10 μ s in lead bromide perovskites2020
Author(s)
Kiyoshi Miyata, Ryota Nagaoka, Masaki Hada, Takanori Tanaka, Ryuji Mishima, Taihei Kuroda, Sota Sueta, Takumi Iida, Yoshifumi Yamashita, Takeshi Nishikawa, Kenji Tsuruta, Yasuhiko Hayashi, Ken Onda, Toshihiko Kiwa, Takashi Teranishi
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Journal Title
The Journal of Chemical Physics
Volume: 152
Pages: 084704
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Selective Reduction Mechanism of Graphene Oxide Driven by the Photon Mode versus the Thermal Mode2019
Author(s)
M. Hada, K. Miyata, S. Ohmura, Y. Arashida, K. Ichiyanagi, I. Katayama, T. Suzuki, W. Chen, S. Mizote, T. Sawa, T. Yokoya, T. Seki, J. Matsuo, T. Tokunaga, C. Itoh, K. Tsuruta, R. Fukaya, S. Nozawa, S. Adachi, J. Takeda, K. Onda, S. Koshihara, Y. Hayashi, Y. Nishina
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Journal Title
ACS Nano
Volume: 13
Pages: 10103-10112
DOI
Peer Reviewed
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