2020 Fiscal Year Research-status Report
多数粒子の並進・回転変位統計解析による混合媒質中のブラウン運動ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
19K15510
|
Research Institution | Ariake National College of Technology |
Principal Investigator |
古川 一輝 有明工業高等専門学校, 一般教育科, 助教 (10779961)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 溶液化学 / 混合溶液 / ブラウン運動 / ゆらぎ / クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
水とアルコールはマクロには混ざり合うが分子レベルでは不均一であり、マクロとミクロな描像にギャップが存在する。近年、エタノール水溶液中の微粒子(直径1μm)の並進ブラウン運動から見積もられる粘性率がマクロな溶液の粘性率から逸脱することを明らかにされているが、 混合溶液内の異常なブラウン運動が溶液内の不均一性に起因するかは解明されていない。 本研究の目的は、並進ブラウン運動と回転ブラウン運動の観測を行うことにより、エタノール水溶液で確認される異常なブラウン運動が溶液内の不均一性に起因するか現象であるかを明らかにすることである。 今年度は、昨年度に構築した測定・解析システムを用いて、温度制御を行った上で、tert-Butanol水溶液中にポリスチレン粒子を懸濁させて、粒子のブラウン運動を解析を行った。tert-Butanol水溶液は、水との混合割合によって粘性率が複雑に変化することが報告されていたため、全アルコール濃度領域で、マクロな粘性率とブラウン運動によるミクロな粘性率の比較を行った。その結果、アルコール濃度が低い領域でのみ、マクロな粘性率から予測される変位よりも、ポリスチレン粒子の変位から見積もられる粘性率が最大で7%逸脱することを明らかにできた。今年度は、本研究成果を論文として報告した。さらに、回転変位を観測するための楕円体ポリスチレン粒子の作製にも成功しており、現在、楕円体粒子のブラウン運動の観測と解析に取り組んでいる。また、ヤヌス粒子を作製するためのポリスチレン粒子のモノレイヤー作製にも成功している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、昨年度に開発した楕円体粒子の作製のための、フィルム延伸装置を用いて、楕円体粒子の観測による回転ブラウン運動の解析に取り組む予定であった。楕円体粒子作製の検討には大量の球状ポリスチレン粒子が必要であったが、感染症対策による輸入規制の影響もあり、球状ポリスチレン粒子の調達が遅れていた。そこで、現存していた球状ポリスチレン粒子で十分に検討することが可能であるtert-Butanol水溶液のマクロな粘性率とブラウン運動によるミクロな粘性率の比較を行った。その結果、1年目に構築した装置の測定・解析システムを用いて、tert-Butanol水溶液におけるマクロな粘性率とミクロな粘性率の差異を明らかにし、その研究成果を論文として報告できた。この結果より、2-プロパノール水溶液を除いた水と任意混合するアルコール水溶液において、低アルコール濃度領域でマクロな粘性率とブラウン運動から見積もられるミクロな粘性率に差異が生じることを明らかにできた。 このため、当初の計画より遅れが生じているものの、アルコール水溶液のマクロな粘性率とミクロな粘性率について、系統的な調査に成功することが出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画全体としては、やや遅れている状況にあるが、回転ブラウン運動については、すでに楕円体粒子の作製方法は確立することが出来た。また、回転ブラウン運動の観測には成功しているため、今年度は回転ブラウン運動からミクロな粘性率の見積もりを行い、アルコール水溶液におけるブラウン運動ダイナミクスの解明を目指す。また、別案としてヤヌス粒子を用いた回転ブラウン運動を観測も検討している。ヤヌス粒子を作製するためには、球状ポリスチレン粒子のモノレイヤーを作製して、金属蒸着を行う必要がある。このうち、球状ポリスチレン粒子のモノレイヤー作製については成功している。回転ブラウン運動の解析プログラムの状況に応じて、楕円体粒子とヤヌス粒子のブラウン運動観測を行い、研究全体の実施計画が円滑に実施できるように柔軟に対応を検討する。
|