2020 Fiscal Year Research-status Report
理論計算に基づく酸塩基複合体中のプロトン伝導機構の解明
Project/Area Number |
19K15524
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
堀 優太 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (40806915)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | プロトン伝導機構 / 分子動力学計算 / 量子化学計算 / ポテンシャルエネルギー / イミダゾール / PVPA / コハク酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリビニルホスホン酸(PVPA)とイミダゾール(Im)の複合体(PVPA-xIm)中のプロトン伝導機構を考察するため、分子動力学(MD)計算によりImの運動の温度変化を調べ、運動の活性化エネルギーからPVPA-xIm中のImの運動性を議論した。Imの分子回転に伴う内部運動の活性化エネルギーが並進運動の活性化エネルギーより低いことから、PVPA-xIm中ではプロトン伝導はVehicle型よりもGrotthuss型の方が優位に起こることが示唆された。また、PVPA-xIm中のImの内部運動には異方性が表れ、Im単体中の内部運動とは異なることを明らかにし、これまでに固体NMR測定により得られていた知見を理論計算の立場からも支持する結果を与えることができた。 また、コハク酸イミダゾリウム(Im-Suc)有機結晶中のプロトン伝導機構解明に向けた量子化学計算によるポテンシャルエネルギー計算も行った。計算からプロトン伝導経路中では、ImとSuc間の分子間プロトン移動とImの回転運動のカップリングによりプロトン伝導が起こりうることがエネルギーの観点から明らかにすることができた。また、実験により得られた赤外分光スペクトルの結果とIm-Sucの局所構造モデルによるスペクトルシミュレーションによる結果を比較することにより、ImのN-H振動がプロトン伝導に寄与することが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
MD計算により、PVPA-xIm中の温度変化によるImの運動の変化を調べ、活性化エネルギーからPVPA-xIm中のImの運動性を議論した。さらに、これまでの量子化学計算とMD計算により得られた結果を統合し、PVPA-xIm複合体中分子レベルでのプロトン伝導機構を提案することができた。これらの結果を学術誌(Chem. Lett., Vol. 50, pp17-20 (2021); J. Comp. Chem., Jpn., Vol. 19, pp131-132 (2020))に発表することができた。 さらに、コハク酸イミダゾリウム(Im-Suc)有機結晶中のプロトン伝導機構解明に向けた量子化学計算によるポテンシャルエネルギー計算を行った。計算からプロトン伝導経路中でのリーズナブルなプロトン伝導プロセスを明らかにすることができた。本研究は、実験との共同研究に発展し、X線構造解析や赤外分光スペクトルによる振動解析により得られた知見と量子化学計算による解析により、Im-Sucの水素結合構造、プロトン移動、分子ダイナミクスの観点からプロトン伝導機構に関する知見を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
Im-Sucの計算をさらに発展させ、分子ダイナミクスとプロトン移動を結びつけることにより、Im-Sucのプロトン伝導機構を分子レベルで明らかにする。 種々のプロトン伝導物質で得られている情報と、本研究で得られたプロトン伝導機構から、プロトン伝導を促進する因子を抽出し、最適なプロトン伝導物質の提案を行う。
|
Causes of Carryover |
国際会議(Pacifichem2020)が開催予定であったが、COVID-19感染拡大の影響の考慮から、次年度開催に変更となったため、当初使用予定であった旅費の一部を次年度使用に変更する必要となったため。
|
Research Products
(9 results)