2019 Fiscal Year Research-status Report
柔軟なジシラン (Si-Si) 結合を持つ電子共役空間の開発と機能探究
Project/Area Number |
19K15530
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
尾本 賢一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特任助教 (40820056)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機ケイ素 / 大環状化合物 / π電子共役系 / 外部刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
フラーレンやカーボンナノリングをはじめ、空間構造を有するπ電子共役系分子:「π共役空間」が機能性材料として注目されている。外的因子で機能制御可能な「π共役空間」を構築するには、既存の剛直なC=C結合に代わる新たな電子共役構造を活用した空間の「柔軟化」が重要である。本課題では、柔軟なジシランσ結合 (Si-Si) とπ電子共役系との間に形成されるσ-π共役に着目し、ジシラン結合を架橋部位として芳香環を連結した、新奇共役空間:「σ-π共役空間」の構築と機能探究を目指す。 2019年度はまずσ-π共役空間として、複数の芳香環とジシランが環状に連結した「ジシラン架橋マクロサイクル」の合成法の確立ならびにその溶液・固相中における動的挙動に関して詳細に検討を行った。ジシラン架橋マクロサイクルは、芳香環とジシランとを有機金属試薬ならびにPd触媒を用いたカップリング反応により逐次連結し、サイズ排除クロマトグラフィー・再結晶法により精製することで、安定な化合物として再現性良く得ることができた。ジシラン架橋マクロサイクルの同定は、各種NMR測定ならびに質量分析により行った。温度可変NMR測定を用いた構造解析により、ジシラン架橋マクロサイクルが溶液中で、ジシラン周りのσ結合性に基づく極めて柔軟な構造を有することが確認された。また、ジシラン架橋マクロサイクルの単結晶が-150℃付近で結晶-結晶熱相転移を示すことを、示差走査熱量測定により確認した。さらに、その熱相転移がジシラン架橋マクロサイクルのジシランσ結合の柔軟性に基づくコンフォーメーション変化に起因していることが、単結晶ならびに粉末X線構造解析により明らかとなった。以上の結果は、柔軟なジシラン結合を主骨格としたσ-π共役空間の外部刺激応答性材料としての活用可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジシラン架橋マクロサイクルの合理的な合成手法を開発したことにより、種々のσ-π共役空間を構築するための合成指針が開かれた。また、得られたジシラン架橋マクロサイクルが、溶液中のみならず固相においても、柔軟な分子骨格に基づく構造変換を示すことが確認され、σ-π 共役空間の外部刺激応答性材料としての活用の展開が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度合成したジシラン架橋マクロサイクルをはじめとしたσ-π共役空間が示す固相・溶液中における構造変換・相転移挙動およびそれに連動した分光学的・力学的特性などに関して、X線回折測定や各種分光測定、計算化学などを駆使して検討し、その機構を明らかにするとともに外部刺激応答性材料としての活用可能性を探求する。
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Causes of Carryover |
今年度は種々のσ-π共役空間の合成に注力する予定であったが、生成物の同定の過程において、ジシラン架橋マクロサイクルの結晶が、分子のコンフォーメーション変化に起因した結晶-結晶相転移を示すといった興味深い現象を見出すに至った。特定の弱い刺激で相転移を示す結晶は、環境・外部因子に応答した電子特性・機械特性を示す外部刺激応答性材料として有望であると考え、研究予定を発展的に変更し、結晶相転移メカニズムの詳細な評価・解明に注力した。そのため有機合成に必要な実験機器および試薬などの購入は行わず、次年度に見送った。 次年度は、ジシラン架橋マクロサイクルをはじめとしたσ-π共役の合成に必要な有機合成試薬・器具に加えて、結晶の相転移挙動の観察に必要な実験器具等の購入を検討している。
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