2019 Fiscal Year Research-status Report
レーザー誘起衝撃波を用いたメカノクロミック発光錯体の機械特性解析
Project/Area Number |
19K15577
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤井 翔 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90725425)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メカノクロミック発光 / パルスレーザー / 衝撃波 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
力学的な外部刺激で構造変化を起こし,発光特性の変化を示すメカノクロミック発光性金属錯体の研究が展開されている.しかし,従来のすり潰しによる評価方法では作用させる力の定量および摩擦熱の排除は困難であり,メカノクロミック現象の学理は不明な点が多い.本研究では,メカノクロミック発光現象を示す既報錯体について,パルスレーザー光を固体基板表面へ照射したときに発生する衝撃波を力学的刺激として用いる.この衝撃波は熱の影響を最小限に留め,パルスレーザー光強度で力の強度を制御でき,力の作用時間は基板の種類に依存する.この衝撃波と顕微分光法を用いて,作用させる力の閾値,時間応答,及び結晶相転移や化学結合組み換えに必要な活性化エネルギーを計測し,力学的刺激と分子間相互作用や分子内結合変化に関わるメカノクロミック現象の学理を明らかにすることを目的としている.初年度はまず,従来のすり潰しによる力学的刺激の要素である熱と力を区別して評価した.既報のすり潰し法によるメカノクロミック発光を示す銅錯体 [Cu4I4(PPh3)4],及び金錯体 [(C6F5Au)2(1,4-diisocyanobenzene)]を合成し,それぞれの錯体に対して加熱及びレーザー衝撃波を用いての発光特性変化の誘起を試みた.結果,銅錯体は熱エネルギー,金錯体は力学的エネルギーに起因することが示唆され,従来報告されているすり潰しによるメカノクロミズムに多様な機構が存在することを明らかにした.次に,金錯体のメカノクロミズムについて,衝撃波法を用いて調べ,メカノクロミック発光が生じるパルスレーザー強度の閾値を定量的に求めた.この閾値について,圧電素子を用いてパルスレーザー強度を衝撃波の力の大きさに換算した.実験の過程で,適当な強度の衝撃波を金錯体に作用させると,変化した発光色は時間経過と共に元の発光色に戻る現象を見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行は,①錯体の合成,②光学系の構築と衝撃波の校正,③計測と解析,の3つに分けられる.初年度において①-③の実験系を一通り構築できている.また,本実験系において力学的刺激による新たな現象も見出している.定量データの精度に改善の余地はあるものの,当初の研究計画・目標は概ね達成できていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
圧電素子を用いた衝撃波力の統計解析を行い,力学情報に関わる定量解析を行う.衝撃波の強度,測定温度条件,基板材料を変え,発光スペクトル変化からメカノクロミック現象が起こる力の閾値,活性化エネルギーに関する定量を行う.得られたデータから,力の強度,力積,活性化エネルギーに着目して解析し,メカノクロミック現象を特徴づける物理量を評価する.その後,配位子を系統的に変えた試料に対しても一連の実験を行い,配位子の構造とメカノクロミック発光現象の関係を力の物性値に基づいて明らかにする.新たに見出した現象に関しては発光色時間変化の時定数に着目し,単結晶中での自己組織化に関して調査する.
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Causes of Carryover |
年度末の学会発表および関連分野の情報収集に関わる旅費を計上していたが,新型コロナウィルス感染症の拡大により研究発表会の現地開催が中止になり,次年度使用が生じた.中止になった研究発表会は次年度に開催されないため,次年度使用額は本研究の効率的な遂行のために使用する.光学部品や解析に関わる電子機器,ソフトウエアの購入に使用する予定である.
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Research Products
(7 results)