2020 Fiscal Year Research-status Report
異常高原子価鉄イオンを有するペロブスカイト型酸化物のイオン伝導機構の解明
Project/Area Number |
19K15585
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
後藤 真人 京都大学, 化学研究所, 助教 (10813545)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 異常原子価鉄 / Aサイト層状配列 / 酸素脱離 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、異常高原子価鉄イオンを含む新規物質の探索を行い、Aサイト層状トリプルペロブスカイトYBa2Fe3O9、Bサイト層状ダブルペロブスカイトSr2ScFeO+x、Bサイト岩塩型ダブルペロブスカイトLn2LiFeO6(Ln: Nd, Sm, Eu)を発見した。YBa2Fe3O9とSr2ScFeO5.5+xは、酸素欠損をもつ前駆体を適切に選択し、低温でのオゾン酸化を施すことで合成した。一方、Ln2LiFeO6(Ln: Nd, Sm, Eu)は高温高圧条件での固相反応法により合成した。得られた化合物に対して、熱重量分析測定、放射光X回折測定、及び57Feメスバウアースペクトル測定を行い、酸素量とFeの価数及び結晶構造の温度依存性を調べた。 Aサイト層状トリプルペロブスカイトについては、室温では酸素欠損がほとんどなく正方晶構造をもつ試料YBa2Fe3O9が得られた。大気中で加熱すると、200 ℃程度という非常に低い温度から酸素脱離が生じ始めることが判明した。これは、異常高原子価Fe3.67+状態の高い電子不安定性に起因していると考えられる。200 ℃から250 ℃の間で酸素量が9.0から8.5程度まで急激に減少し、その後は500 ℃程度までなだらかに減少しながら最終的には前駆体であるYBa2Fe3O8まで還元される。ここで、もう一つ興味深い事に、200 ℃から250 ℃の急激な酸素脱離が生じる領域では、温度を上げるにつれて格子体積が減少することも分かった。これらの結果は、昨年報告したBサイト層状ダブルペロブスカイトCa2FeMnO6(Fe4+)とは定性的に大きく異なっており、サイトの秩序バターンの違いが酸素イオンのダイナミクスやそれに伴う結晶構造変化に大きく依存することが示唆される。Sr2ScFeO5.5+xとLn2LiFeO6については、現在結晶構造を解析中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、新たに5つの異常高原子価鉄イオンを含む新規物質を合成することができ、またYBa2Fe3O9については、酸素脱離や結晶構造変化を含む酸素イオンのダイナミクスの大部分を解明できたことから、おおむね計画は順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずSr2ScFeO5.5+xとLn2LiFeO6の結晶構造の解析を行い、その後はこれらの酸素イオンのダイナミクスの解明に取り組む予定である。特に、Sr2ScFeO5.5+xは興味深い酸素イオンダイナミクスが観測されたCa2FeMnO6と同様にBサイトの層状配列を含むことから、その性質を調べることは最重要課題である。また、引き続きオゾン酸化や高温高圧合成により異常高原子価鉄イオンを含む新規物質の探索に取り組む予定である。
|
Causes of Carryover |
当該年度は、高圧合成よりもオゾン酸化に取り組む時間が長く、高圧合成に不可欠なPtチューブなどの消耗品をあまり購入しなかったため、次年度に一部研究費を繰り越すこととなった。次年度は、昨年の終盤に合成に成功したLn2LiFeO6(Ln: Nd, Sm, Eu)のLnサイトを変えた物質の合成に取り組むため、繰り越した分も含めて高圧合成用の消耗品購入のために研究費の多くを用いる予定である。
|