2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K15586
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西井 祐二 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70773787)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アライン / 環ひずみ / ニッケル / チオフェン / チアゾール |
Outline of Annual Research Achievements |
ベンゼン環のC=C結合のひとつが三重結合となったアライン化学種は、環ひずみの解消を駆動力とした高い反応性を示すことが知られており、様々な分子変換に利用できることが知られている。一方、5員環芳香族分子に対応するアラインは、小さな環サイズのために更にひずみが大きく、その発生や構造決定は困難と考えられていた。以前に私は、ニッケル金属による配位安定化を利用することで、チオフェン由来5員環アラインの単離および単結晶X線構造解析を達成した。本研究では、同様に手法により「超ひずみ分子」と呼べる多様な5員環アライン分子の発生手法について検討を行った。具体的には、(1)チアゾールなどの種々の5員環芳香族分子について、対応するアラインの合成可能性を検討し、(2)また金属イオンによる配位安定化に頼らないアライン発生手法を確立することで、有機合成への応用を目指した。その結果として、 (1)チオフェンの場合と同様にアライン前駆錯体の合成のため、ブロモ基とボロン酸エステル基を隣接位置に持つ芳香族分子を合成し、低原子価ニッケルに酸化的付加させる手法をとった。対応する芳香族分子の合成には、HMPUを補助剤とした低温下でのリチオ化が有効であった。チアゾール・オキサゾール・フラン・ベンゾフランそれぞれについて、酸化的付加による前駆錯体の単離に成功し、各種NMR測定などから構造決定を行った。これらのニッケル錯体を強塩基で処理することで対応する5員環アライン錯体に誘導を試みたが、中間体として形成するアート型錯体との分離が困難であり、更なる条件検討が必要といえる。 (2)金属フリーなアライン形成手法として、超原子価ヨウ素化合物の高い脱離能に着目した。上記のボロン酸エステル誘導体の合成を参考に、位置選択的リチオ化を経由する方法では合成が困難であったことから、ケイ素置換基の直接ヨウ素化等の合成経路を検討している段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の概要における(1)アライン錯体の合成については、多様な前駆錯体の合成手法が確立できた点で進展が見られるものの、目的としているアライン錯体の単離および同定には課題が残っている。過去に合成したチオフェン由来の錯体と比較して、より熱力学的に不利な構造のためと考えている。(2)の金属フリーなアライン形成については、依然として前駆体合成に成功していない。既報の超原子価ヨウ素化合物合成法をいくつか検討しているものの、いずれについても原料回収にとどまっているため、標的分子を再設計する必要があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)前駆体からのアライン形成に焦点を当てて検討を進める。これまで用いていたカリウムアルコキシド等では反応速度が遅く、また溶媒への溶解度も低いことから、ヘキサメチルジシラザン等の金属アミド試薬やシラノール系の塩基を中心に反応性を評価していく。合成上の都合により、活性化基がボロン酸エステルに限定されていることも検討の幅を狭める要因であることから、並行して異なる活性化基を持つ前駆体調製を試みる。(2)既報の超原子価ヨウ素化合物は、基本的にベンゼンなどの炭化水素環について報告されており、本研究で扱うような複素環分子の合成法はあまり知られていない。これまでの検討結果で、芳香環の炭素原子とヨウ素原子間の結合があまり強くないことを示唆する結果が得られていることから、カウンターアニオンを配位性の強いものに変更する、あるいは分子内配位が可能な分子設計を行うなど、安定化が可能となるような構造を検討する予定。
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Causes of Carryover |
初年度に導入予定であった機器の購入を次年度に見送ったこと、また実験用試薬の購入経費が当初の予定より下回ったことが挙げられる。また新型コロナウイルスの影響により、出張の取りやめによって旅費が減額となった。 R2年度では予定していた機器の導入、実験用試薬・溶媒の購入費用によって残る経費を適切に使用する。
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Research Products
(11 results)