2021 Fiscal Year Research-status Report
プロトン-電子連動現象の探索を目指した、カゴメ型多孔性電子伝導体の創製
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19K15590
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
林 幹大 長崎大学, 教育学部, 助教 (40771225)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 金属錯体 / 水素結合 / 二次元物質 / カゴメ格子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,プロトン移動と電子移動が拮抗するプロトン-電子共同移動(PECT)を示す結晶性の固体物質の創製を目指す。ビルディングブロックとして,ビスピラジンジチオレンニッケル錯体(Ni錯体)に着目している。Ni錯体及びその金属置換体(Pd,Pt)の溶液測定から,金属置換によりプロトン脱着に伴う電子状態変化の制御が可能である事を見出している。Ni錯体のアンモニウム塩は,錯体-アンモニウムイオン間の水素結合によりNi錯体がカゴメ格子状に配置された層状結晶(カゴメ型伝導体)を与える。このアンモニウム塩では,金属種をNiからFeに置換可能である事を見出している。 2021年度は,カゴメ型伝導体の物性測定を行った。カゴメ型伝導体は積層方向に錯体同士の1次元のπ軌道の重なりを持ち,Ni錯体の化合物では積層方向に半導体的な電気伝導を示す一方,Fe錯体の化合物ではカゴメ型伝導体は絶縁体であった。これらの磁化率の温度依存測定から,Ni錯体間の磁気相互作用は常磁性的であり,Fe錯体間では反強磁性的相互作用が生じることがわかった。よって,金属置換によりカゴメ型伝導体の電子物性制御が可能である事を明らかとした。 カゴメ型伝導体では錯体-アンモニウムイオン間のプロトン移動は観測されなかった。そこで,Ni錯体のプロトンアクセプター性を増大する分子修飾の検討と,新たにNi錯体と水素結合しうるプロトンドナー分子の探索を行った。前者の方針は,配位子の合成と結晶育成にとどまっている。後者の方針では,Ni錯体とカリックス[4]レゾルシンアレーン(CR)との混晶化が,Ni錯体-CR間の水素結合が2次元にネットワークを組んだ層状結晶(超分子シート)を与える事を見出した。分光測定結果より,超分子シート内でCRからNi錯体へのプロトン移動が示唆された。また,金属種をPd, Ptに置換した超分子シートの合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究から,ビルディングブロックであるNi錯体の金属置換によりカゴメ型伝導体の電子状態制御が可能である事が示された。これらの得られた成果を学術論文にまとめ,投稿の準備をしている。一方,申請書に記載した課題2「段階的プロトン導入による,戦略的なプロトン-電子連動の誘起」に大きな進展をもたらすことができていない。その理由の1つとして,錯体のアンモニウム塩であるカゴメ型伝導体の構造安定性が低く,多孔性高分子などで用いられるトポケミカル的な化学修飾が困難である点があげられる。この打開策として,錯体のプロトンアクセプター性を強めるような化学修飾を配位子に施し,ボトムアップ的な手法でカゴメ型伝導体に水素結合ネットワーク集積体の構築を検討している。もう1つの打開策として,Ni錯体と組み合わせるプロトンドナーをポリフェノール系の分子であるカリックス[4]レゾルシンアレーン(CR)へ変更した。Ni錯体とCRの共晶化により,プロトン移動が生じやすい2次元の水素結合ネットワークを有す超分子シートの構築に成功した。カゴメ型伝導体と同様に,超分子シートにおいても金属種の置換が可能である事を確認している。この結果は,超分子シート内での錯体―CR間PECTの発現を可能とする集合体の設計に重要な指針を与える成果である。したがって現在までの進捗状況を総合的に判断すると,おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,申請書に記載した課題2「段階的プロトン導入による,戦略的なプロトン-電子連動の誘起」及び課題3「物性測定による、複数秩序の競合現象と新物性の探索」の解決を目指す。そのために,①カゴメ型伝導体でのプロトン移動の実現と,②水素結合シートへの開殻電子システムの導入を並行して行う。 ①に関して,プロトン移動が可能な水素結合ネットワークの導入手法をトポケミカル的な方法からボトムアップ的な方法に切り替える。よって,プロトンドナー性を強める配位子の化学修飾を検討し,アンモニウムイオンを用いた分子集積を引き続き行う。②に関して,Au(III)イオンやNi(III)イオンのように錯体に開殻電子構造を与える金属種に着目する。それら錯体とカリックス[4]レゾルシンアレーン(CR)との共晶化により,錯体―CR間のPCETを発現する開殻水素結合シートの構築を目指す。①または②で得られた化合物の物性測定を行い,論文化を目指す。
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Research Products
(2 results)