2021 Fiscal Year Research-status Report
核物質取扱い履歴推定に向けたウラン微粒子表面・内部の部位別化学状態分析手法の開発
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19K15606
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
蓬田 匠 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (40743349)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ウラン / 微粒子 / 顕微ラマン分光法 / 電子線後方散乱回折法 / マイクロX線吸収分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、顕微ラマン分光分析法による微粒子分析の前処理方法の検討と、透過型X線顕微鏡によるウラン微粒子のX線吸収分光測定を行った。 顕微ラマン分光測定時の前処理方法として、紫外線照射および加熱による前処理を6価ウランの標準ウラン化合物(過酸化ウラニル)に対して行い、前処理を行わない場合とそのラマンスペクトルを比較した。まず、前処理をせず試料を直接分析した場合は、過酸化ウラニルの構造に由来する830 cm-1と870cm-1付近のラマンピークが観測された。一方、紫外線照射、あるいは加熱の前処理を行った場合、830 cm-1と870cm-1付近のラマンピークが消失した。この結果は、前処理によって化学形が変化し、元の化学形が保たれていないことを示す。そのため、これらの前処理方法では一部のウラン化合物の化学形が変化する可能性があることが明らかになった。そのため、環境試料中に含まれるウラン微粒子の化学形を判別するためには、紫外線照射や加熱などの前処理は行わず、サンプリングした粒子をそのまま分析する方が良いと考えられた。 また、透過型X線顕微鏡を用いたウラン微粒子のX線吸収分光測定を行った。この分析法では、ウラン微粒子の透過X線像を取得しながらXANESを測定する手法であり、X線を用いた化学形の分析に問題点となっていた測定時の位置ずれを補正可能な分析法である。マイクロメートルから10マイクロメートル程度の粒径の二酸化ウラン粒子の分析を行い、画像処理で位置ずれを補正して、ウラン粒子のXANESスペクトルを得た。その結果、粒径1マイクロメートル程度のウラン粒子まで標準とおなじピークトップ位置が得られた。ウラン化合物のピークトップは価数を反映するために、透過型X線顕微鏡を用いたX線吸収分光測定によって、粒径約1マイクロメートル程度のウラン微粒子までその価数が判別できることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、4年間の研究期間の中で、顕微ラマン分光分析法、電子線後方散乱回折法、マイクロX線吸収分光法という異なる分光分析法を実験に用いる計画である。本年度は、研究計画の3年目であり、試料前処理と新しいX線吸収分光法の適用に関する検討を行った。標準試料を用いた実験結果より、紫外線照射や加熱の前処理はウランの化学形を変化させる可能性があることから、回収した試料をそのまま分析する手法が化学形の変遷を防ぐために有効であることを明らかにした。また、新しく導入したX線顕微鏡によるX線吸収分光法により、初年度では困難であった1マイクロメートル程度の粒子まで化学形を判別することが可能になった。したがって、研究計画当初のアプローチとは異なるものの、当初の想定通りの成果が得られたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度であるため、これまで行ってきた分析法を実環境試料を模擬したウラン試料に適用する。これまでの結果より、紫外線照射や加熱などの試料前処理法が一部のウランの化学形を変化させる可能性があることがわかったため、試料前処理を行わない状態で電子線後方散乱回折法、顕微ラマン分光測定、およびX線吸収分光測定によるウラン微粒子の化学状態を推定する。 モデル化合物として、大気雰囲気下で長期間保存された二酸化ウラン粒子に開発した微粒子部位別の測定手法を適用する。微粒子の表面は電子線、あるいはレーザー光をプローブによる手法によって分析し、内部は透過能の高いX線吸収分光法によってその化学形を判別する。得られた結果を解析することによってウラン微粒子の内部と表面の化学形に違いがあるのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、顕微ラマン分光実験とX線吸収分光実験による試験を実施した。次年度もこれらの試験を継続する予定であるが、装置類や消耗品の劣化や破損などを避けるために、一部の物品の購入を先送りにしたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、令和4年度研究経費と合わせて、購入を先送りした実験器具類等、研究に必要な物品の購入費用として使用する。
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Research Products
(2 results)