2019 Fiscal Year Research-status Report
高分子材料の破壊・疲労・劣化機構を解明する次世代のメカノプローブ開発
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19K15623
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
今任 景一 広島大学, 工学研究科, 助教 (80777970)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メカノケミストリー / メカノフルオロクロミズム / 高分子化学 / 電荷移動相互作用 / 応力検出 / 分子マシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高分子材料の破壊・疲労・劣化現象の機構解明に適した機能(①室温不可逆性、②可逆性の光制御、③高感度検出)を併せ持つ次世代のメカノプローブ(MP:力に応答して色調や蛍光が変わる分子)の開発を目的としている。本研究で開発するMPは次の3分子で構成される。熱安定だが力・光応答性のOvercrowded alkene (OA)、蛍光性で電子不足なPerylene diimide (PDI)、電子豊富なPerylene。MPに力が加わっていない場合、PDIとPeryleneが電荷移動(CT)相互作用を形成してPDIの蛍光は消光する。力を加えるとOAが異性化してCT相互作用が解離し、PDI蛍光が生じる。OAの異性化は熱不活性である一方、適切な波長の光を照射することで光可逆的に制御でき、MPを元に戻すこともできる。 初年度はMPを構成する各分子の合成に取り組んだ。OA、PDI、Peryleneの合成ステップはそれぞれ、3、6、2ステップであり、最後に3分子を繋げる1ステップを経てMPを合成する。現在までにOAの合成は完了し、PDIとPeryleneはそれぞれ、4と1ステップまでを完了している。OAについては、光に対する応答性と熱に対する安定性を溶液中で評価した。trans-OAに310 nmのLED光を照射すると、紫外可視吸収スペクトルが変化して40秒で平衡に達し、cis-OAの生成が示唆された。1H NMR測定から算出した異性化割合はtrans/cis = 9/91であった。この混合溶液に385 nmのLED光を照射すると、吸収スペクトルの形状がtrans-OAに近づき、その変化は5秒で平衡に達した。1H NMR測定から算出した異性化割合はtrans/cis = 71/29であった。この光異性化は少なくとも3回繰り返し観測された。また、100 °Cで30分間静置した後でも1H NMRスペクトルに変化はあまり観測されなかったことから、OAの熱安定性も確認できた。以上の結果から、本研究の鍵となる熱安定性の分子マシンOAの合成と評価を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の申請時は、初年度にMPの合成を完了する予定であった。しかし、Peryleneの合成において、新規化合物の精製方法の確立に時間がかかってしまった。一方、OAの合成は完了し、さらに光応答性と熱安定性の評価までを達成できた。以上の理由により、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究の推進方策として、申請時の研究計画通りに実施する予定である。引き続きMPの合成を行い、完了次第、光応答性や熱安定性の評価と粉末のすり潰し試験による簡易的なMPの力に対する応答性評価を行う。その後、MPを高分子鎖中に導入し、高分子材料の力学物性および力に対する応答性を評価することで、破壊・疲労・劣化現象解明への有用性を実証する。
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Remarks |
新化学技術推進協会 第8回新化学技術研究奨励賞 受賞 2019年度色材研究発表会 優秀講演賞 受賞
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Research Products
(7 results)