2019 Fiscal Year Research-status Report
活性な空軌道を持つカゴ型ボレートに基づく多様な結合の構築と高分子機能への展開
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19K15639
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
高橋 明 神奈川大学, 工学部, 特別助教 (50815660)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機ホウ素化学 / ボレートエステル / かご構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の本研究では、多様な反応への展開が期待できるカゴ型ボレートに関する基盤的知見の獲得を目的とし、種々の低分子カゴ型ボレートの分子設計および合成について検討を行った。橋頭位のホウ素原子を介した結合形成やボレートエステル部分の加水分解といったカゴ型ボレートの特性は、主としてかご構造全体の立体的安定性、ボレートエステル結合形成相手のOH種、およびホウ素と反対側の橋頭位元素に大きく左右されると考えられる。これらの要因を考慮し、まずは安定性に優れる誘導体をモデルボレートとして選択し、ルイス塩基との分子間B-N結合形成について検討したが、結合形成効率が非常に低い結果となった。この要因として、今回用いたモデルボレートでは自身の立体的・電子的安定性が高いため、立体構造変化を伴う分子間結合形成に適さなかった可能性が示唆された。実際、密度汎関数法に基づく計算を行ったところ、この仮説を支持する結果を得た。また、より分子間結合形成に適した立体構造を持つカゴ型ボレートの合成検討では、カゴ構造自体の安定性が乏しく目的物が得られない結果となった。一方、ここでの検討から合成時のホウ素原料や反応条件がカゴ構造の形成効率に与える影響要因について見出した。以上の結果より、カゴ型ボレート分子構造とその安定性および分子間結合形成特性との相関について一定の知見を得た。 一方、本研究の過程で着想を得て合成したスピロ構造を持つボレート化合物が、低分子でありながらポリマー様の性質を発現するという極めて興味深い現象を見出した。この現象に関して知見を得るために種々の検討を行った結果、特異的な分子間相互作用特性に基づくものであることが示唆された。これは易加工・易解体性の接着剤などへの応用が可能な新たな機能性物質群の創製に繋がる発見であり、この結果について翌年度の学会にて発表を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はカゴ型ボレートの安定誘導体に関する合成手法を確立し、本研究を遂行するための基盤となる知見を得た。また、11B-NMR測定環境の整備や計算化学手法の習得など、研究を円滑に遂行するための環境を整えた。さらに、本研究における検討に基づいて着想を得た新規関連テーマの立ち上げを行った。一方、全体として未だまとまった成果ではなく基礎的な部分における進展にとどまっていることから、やや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる2020年度は、本研究の重要な目的の1つである「高分子化学におけるカゴ型ボレートの機能展開」に重点を置いて研究を推進する。2019年度の研究から、安定性に優れるカゴ型ボレートの合成手法を見出した。そこで、まずはラジカル重合性官能基を有する安定カゴ型ボレート誘導体の合成を行い、ラジカル重合によるポリマーの合成を行う。ここで、ビニルモノマーの合成では一般的に合成過程で重合が起こる副反応が想定され、合成自体が難航する懸念がある。そこで、次善策としてポリマー側鎖での高分子反応に基づく目的ポリマー合成についても計画する。 得られたポリマーを用いて、高分子中に導入されたカゴ型ボレートの特性を評価する。このポリマーは加水分解により多価の水酸基を生成することから、種々の系において劇的な物性変化を誘起すると考えられる。本研究では、この物性変化について明らかにするとともに、機能展開を計画する。また、これら高分子系における研究と並行して、低分子カゴ型ボレート自体の分子設計の改良についても計算化学手法などを用いながら引き続き検討を行う。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた物品の一部を他大学に転出された先生より譲り受けたため、残額が生じた。これは次年度に引き続き研究を行う上で必要となる試薬・物品・計算用ソフトウェアなどの費用として活用する。
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