2019 Fiscal Year Research-status Report
増殖因子ミメティクス核酸に基づく受容体パーシャルアゴニズムの解明
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19K15693
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
植木 亮介 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90755703)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | DNA アプタマー |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜上における受容体の二量化は、細胞が外界環境を感知して適切な応答を誘起するための代表的な分子機構の一つである。例えば、増殖因子やサイトカインは受容体の二量化を誘起し、細胞内ドメインのリン酸化を誘起することで多様な細胞機能の発現を制御している。これらの分子は、その生理作用から再生医療への応用が検討されてきたが、細胞の増殖・分化・遊走・免疫反応など様々な機能発現に関与するため、発がんやアレルギー反応などの副作用のリスクを併せ持つ。このような中、天然増殖因子と比較して受容体の最大リン酸化レベルが低下した「増殖因子受容体パーシャルアゴニスト」が近年注目を集め、副作用の少ない次世代の増殖因子・サイトカイン療法を実現することが期待されている。しかし、上記のようなパーシャルアゴニストの作用機序は未だ不明な点が多く、合理的な分子設計指針は確立されていないのが現状である。
このような背景において、本研究は申請者が開発した独自の受容体活性制御ツールを用いてパーシャルアゴニズムの発現機構の理解と、分子設計指針の獲得を目指すものである。本年度は過去の検討で見出した、異なる受容体活性化レベルを示す増殖因子ミメティクスを用いて、受容体リン酸化挙動の比較、細胞挙動への影響評価を実施した。その結果、これらパーシャルアゴニストにおいては、受容体リン酸化の時間的プロファイルは大きく変化せず、最大リン酸化量が低下する挙動が確認された。加えて Met 発現細胞の遊走活性がパーシャルアゴニストを用いて精密に制御可能であることを見出した。これらの成果はプレプリント公開の後、論文投稿中である(https://doi.org/10.26434/chemrxiv.9703013.v1)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、申請者らが開発した受容体活性制御ツールである増殖因子ミメティクスを利用し、パーシャルアゴニズムの発現機構解明を目指した。
増殖因子ミメティクスは、試験管内進化法(SELEX法)によって獲得可能な核酸アプタマーから構成されている。申請者らは、増殖因子受容体を認識するアプタマーを二量体として利用することで、天然増殖因子と同様に受容体の活性化が可能であることを実証している(Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 579.)。このミメティクス分子はDNAから構成されるため、塩基配列によって構造を自在に規定可能であり、受容体のクラスタリング形式(距離・配向)を精密に制御することができる。また、受容体に対する結合部位の特定もなされており、塩基配列の変異による親和性の調節も可能である(Chem. Commun. 2014, 13131.)。
本年度は肝細胞増殖因子(HGF)の受容体である Met を標的として検証を実施した。これまでに Met に対する核酸アプタマーの分子設計に応じて、最大受容体リン酸化量(Emax)の値が低下したパーシャルアゴニストが得られることが見出されている。本年度は、これら異なるEmax値を示す増殖因子ミメティクスによる受容体リン酸化挙動の比較、細胞挙動への影響を評価した。Met発現細胞を用いた評価は円滑に進行し、これらの成果はプレプリント公開の後、論文投稿中である。また、次年度の研究計画に向けた予備実験も順調に進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、受容体活性化における反応速度解析と受容体リン酸化レベルの相関を明らかにし、パーシャルアゴニズム発現の機構を解明すべく研究を遂行する。 具体的には、受容体の活性化過程を (1)細胞膜上へのリガンド分子の結合、(2)細胞膜上での受容体二量化 の二段階に分け、一分子蛍光観察による解析から各過程の速度定数の算出を試みる。これまでに実験に必要な蛍光標識可能な受容体コンストラクトの構築、生細胞による一分子イメージングの予備検討を終了しており、計画の円滑な遂行が期待される。
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