2019 Fiscal Year Research-status Report
ライブラリー戦略に基づく金属相互作用天然物の機能解明と新機能分子創製
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19K15704
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 寛晃 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20758205)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 化合物ライブラリー / 天然物有機化学 / 全合成 / 固相合成 / ペプチド / 構造活性相関 / 不飽和アミノ酸 / 抗生物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主にone-bead-one-compound (OBOC)戦略の天然物への応用に関する概念実証と、α,β-不飽和アミノ酸を含むペプチド系天然物の効率的な固相合成のための方法論確立を目的として、抗菌環状ペプチド系天然物ライソシンE、抗がん活性天然物ヤクアミドBをモデル化合物として研究を展開した。また、イオンチャネル形成ペプチド系天然物であるポリセオナミドBおよびグラミシジンAについて、人工類縁体の細胞に対する作用解析ならびに脂質認識に関する調査を試みた。 ライソシンEに関しては、固相全合成法とOBOC戦略を応用し、天然物を含む2401種類からなるライソシンE類縁体で構成されるライブラリーを7510個のビーズ結合型化合物群として構築した。また、機能評価とMS/MSによる構造決定により、黄色ブドウ球菌に対して天然物と同等またはより強力な抗菌活性を示す11の新規類縁体を得ることに成功した。さらに詳細な機能評価により、これらの類縁体は期待通り天然物と同様に細菌細胞膜に存在するメナキノンを標的とし、細胞膜を乱すことで抗菌活性を発現することが示唆された。 ヤクアミドBに関しては、課題であったβ,β-ジアルキルα,β-不飽和アミノ酸部位のE/Z選択的な構築を、無痕跡型Staudingerライゲーションの応用とエナミド部位の新たな脱保護戦略によって実現し、総収率が従来法の3倍となるヤクアミドBの効率的な固相全合成を達成した。 ポリセオナミドBに関しては、側鎖を単純化した人工類縁体の機能を、新たに合成した蛍光標識体を利用した細胞内挙動解析により初めて明らかにした。また、環状グラミシジンA類縁体の各種リン脂質中でのイオンチャネル形成能、コンフォメーションの変化と、脂質親和性をリポソームを用いた実験ならびに脂質ドットブロット法により明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概念実証、方法論確立を目指す研究を遂行する中で、次に挙げる重要かつ大きな進展があった。 (1) OBOC戦略をライソシンEの固相全合成に対して応用することで、天然物と同等もしくはより優れた抗菌活性を示す新規類縁体を複数発見することに成功した。また、ライソシンEの第6残基ロイシンと第11残基イソロイシンが抗菌活性に重要であることを初めて見出した。 (2)確立した無痕跡型Staudingerライゲーションと脱保護戦略は、これまでE/Z選択的な構築が困難であったβ,β-ジアルキルα,β-不飽和アミノ酸を複数含むヤクアミドBの効率的な固相合成を可能にした。本法はヤクアミドBを従来の液相合成法の3倍の総収率で与えるため、ヤクアミドBの供給法としても飛躍的に効率化された。また、Fmoc固相合成法を基盤としており、高い一般性がある。本法は、金属相互作用天然物などα,β-不飽和アミノ酸を持つ多様なペプチド系天然物の合成に応用可能である。 (3)イオンチャネル形成天然物の類縁体の機能解析を通して、これらの化合物の生物活性発現や脂質選択性に関する重要な示唆を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
ペプチド系天然物の中には、アミノ酸残基Cα位の絶対立体配置が決定されていない、または通常の分析法による決定が困難な化合物が存在する。本研究課題の標的である金属相互作用ペプチド系天然物にもアミノ酸残基の絶対立体配置が未決定の化合物が多く存在する。この事実を考慮すると、側鎖の多様化を目的として行うOBOCライブラリー構築時に、同時に天然物の立体化学が決定できることが望ましい。そこで、OBOCライブラリーにおいてCα位の立体化学に多様性を持たせることが可能なジアステレオマー識別法を確立することを目指す。 まず、イオンチャネル形成ペプチド系天然物をモデル化合物とし、ジアステレオマーライブラリー構築後、質量分析法による迅速なジアステレオマー識別のための方法論を確立する。まず、化合物の特性を効率的に評価する方法を、側鎖構造を多様化させたライブラリーを利用して確立する。さらに、ジアステレオマーライブラリーの構築と評価により、天然物の立体化学を絞り込む方法論を確立し、金属相互作用ペプチド系天然物へ応用することを目指す。
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Causes of Carryover |
主として試薬等の消耗品コストが抑制できた。次年度実施予定の有機合成実験と機能評価実験により使用予定である。
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Research Products
(23 results)