2019 Fiscal Year Research-status Report
ファルカチンAの全合成研究に基づく新規Kイオンチャネル阻害薬の創製
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19K15714
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 繭美 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特任助教 (80822345)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | テルペン / 創薬研究 / Kチャネル阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
ファルカチンAは特徴的なデカヒドロベンズ[f]アズレン骨格をもち、GIRKチャネル選択的な阻害作用をもつ新規抗不整脈薬のリードである。本研究ではこのファルカチンAを基盤とした創薬研究を指向し次の項目に関して検討を行うこととした。(1)誘導体化を指向したファルカチンAの全合成経路確立(2)ファルカチンA、及びその誘導体を用いた構造活性相関研究 平成31年度は(1)誘導体化を指向したファルカチンAの全合成経路確立を目指してその合成を詳細に検討した。まず初めにアレン及びエニン部をもつマロン酸誘導体をマロン酸ジエチルから数工程で合成し、Pauson-Khand反応による5員環-7員環の構築を行った。所望のビシクロ体を得たが、収率に課題を残す結果となったため、合成経路の変更し、7員環部の構築を合成終盤にピナコールカップリングを用いて行うこととした。また、この合成経路でファルカチンAを合成するには(1R,3S,4R,5S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸が必要であったが、そのエナンチオマーであるキナ酸の入手が容易であることから、研究の初期段階ではent-ファルカチンAを用いて合成経路確立することとした。キナ酸から数工程で得られるプロピリデン化された4,5-ジヒドロ-2-シクロへキセノンに対し2位のヨウ素化、水素化ナトリウムと塩化セリウムを用いた還元によりトリオール誘導体とした。得られたトリオールに対しクロスカップリング反応ののち、無保護アルコールの酸化、1,4-付加によるアルケニル基の導入を経て2位をアルキル化、3位をアルケニル化したエノンを得た。次に得られたエノンの2位をSc(OTf)3とホルムアルデヒドを用いたヒドロキシメチル化を含む数工程を経て5員環部を持たないモデル基質を用いて7員環構築の検討したが、所望の化合物は得られず、現在詳細を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた合成経路は断念したものの、その検討によって得られた知見を基に、次の合成計画を立案することが可能であった。 新たな合成経路は、別途調整した5員環フラグメントと6員環フラグメントを連結させることで7員環部を構築し、その後、6員環に含まれるカルボニル基のα位に脱離基を、β位-δ位間にジメチルシクロプロパン環導入する。その後、ジメチルシクロプロパン環の開裂と脱離基の脱離による6員環エノン構築を伴う第三級カルボカチオンの生成と、7員環上に存在するアセトキシ基の転位、及びテトラヒドロフラン環の構築を一挙に行うものである。 この合成経路では、7員環構築に用いる6員環フラグメントの合成経路確立は終了しており、5員環フラグメントの合成と並行してモデル基質の調整、及び7員環構築における反応条件の確立を試みている。 4年間の期間がある本研究において、最も困難とする課題の1つは天然物であるファルカチンA及びその類縁体の合成経路確立であり、本研究のこの段階を研究開始後の一年間で、母骨核となる5-7-6の3環性骨格構築検討に移行できている点で、概ね順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後は、引き続きモデル基質を用いた7員環構築の検討と並行して、5員環フラグメントの合成とそれを用いた5-7-6の3環性骨格構築法確立を行っていく。 また、5-7-6の3環性骨格をもつ誘導体が得た後は、7員環部へのアセトキシ基の導入、及び6員環部に存在するカルボニル基のα位をハロゲン化等を行うことで脱力の導入を、β位、及びδ位に存在するヒドロキシ基を足掛かりとして各種変換を施すことでジメチルシクロプロパンを構築する。その後、ジメチルシクロプロパン環の開裂と脱離基の脱離による6員環エノン構築を伴う第三級カルボカチオンの生成と、7員環上に存在するアセトキシ基の転位、及びテトラヒドロフラン環の構築を検討し、ファルカチンAの全合成を達成する。 ファルカチンAの合成法を確立したのちは、合成中間体に含まれるジメチルシクロプロパン環のジメチル部を各種、ジアルキル部へと変換することでファルカチンA誘導体を合成する。得られたファルカチンA誘導体は、GIRKチャネル発現細胞を用いたホールセルパッチクランプ法によってGIRKチャネル阻害活性、及びレジデンスタイムの測定を行う。同時に、生体内に複数存在するKチャネルの選択性を明らかにするべく、hERGチャネル阻害活性も測定する。チャネル阻害活性を測定した後は、さらなる構造活性相関研究を目指し部分構造欠如誘導体を用いたファルカチンAのファーマコフォア同定やレジデンスタイム-活性相関関係による新規Kチャネル阻害剤の開発を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額との差額が生じた理由としては、年度末に開催された日本薬学会第140年会が新型コロナウイルス感染症の拡大による情勢を鑑みてWeb要旨の公開及びプログラム集の発行を持って発表が成立したものとなったため、旅費等に必要とされた金額分が差額として生じている。研究の進捗状況としては概ね順調であるので、引き続きファルカチンAの5-7-6の3環性骨格構築の検討後、エノンの構築を伴うジメチルシクロプロパンの開裂と脱離基の脱離、及び第三級カルボカチオンの生成反応と、それに続くアセトキシ基の転位とテトロヒドロフラン環構築の検討を行う。
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