2019 Fiscal Year Research-status Report
PETを代謝して有用化合物を生産する細菌株の遺伝子工学的開発
Project/Area Number |
19K15735
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
蜂須賀 真一 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 博士研究員 (90835927)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | PET(ポリエチレンテレフタレート) / プラスチック / 物質生産 / 遺伝子工学 / 応用微生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、poly(ethylene terephthalate) (PET)を分解する細菌の代謝経路を遺伝子工学的に改変し、PETから有用化合物を生産する株を作製することを目的としていた。具体的には、機能化学品やポリマー、医薬品、農薬などの原料となり得るprotocatechuate (PCA)、β-ketoadipate enol-lactone (KEL)およびcis, cis-muconate (MA)の生産を目指した。 すでに準備段階で、接合伝達と相同組換えを用いた本菌における遺伝子破壊系を構築していたが、その手法では破壊株を得る速さにまだ改善の余地が見られ、また安定した確率で破壊株を得ることができなかった。そこでまず、破壊株作製時に用いる培地の条件検討および手法自体の再検討を試みた。手法自体の大きな変更点は、相同組換えを誘導するために働くカウンターセレクションマーカー遺伝子に、以前とは別の遺伝子を用いたことである。これらの検討の結果、破壊株取得の速さおよび安定性に改善が見られた。本手法を用いて破壊株作製を遂行した研究成果を学会においても発表した。 次にPCA生産株の作製を目指した。本菌において、TPA代謝経路上のPCAの直後の反応を触媒すると推測される遺伝子の1つPcaG (protocatechuate 3,4-dioxygenase alpha chain)を破壊した。本破壊株をPETで培養すると、その培養液が親株のものと比べて視認できるほど黄褐色に変化した。そこで、その培養液に対して吸光度、LC-MS、HPLCによる解析を行ったところ、PCAと考えられる化合物が検出された。 現在、KELを生産するための遺伝子を破壊した株の作製を完了し、解析を進めているところである。またMAを生産するために、2つの遺伝子の破壊、および1つの外来遺伝子の導入を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず「研究実績の概要」でも述べたように、準備段階ですでにPET分解細菌における遺伝子破壊系を構築していたものの、破壊株取得の速さおよび確率に改善の余地があった。そこで有用化合物を生産する株を作製する前に、遺伝子破壊系の手法の再検討を行った。そのため、本研究の課題自体に取り掛かるまでに時間を要した。しかしながら、遺伝子破壊系の手法改良後には、本研究の計画段階時よりも短期間で遺伝子破壊株を得ることができるようになったため、これまでの遅れを取り戻すことが可能であると考えている。 また本年度末にかけて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響のため、研究活動時間に大きな制約が加えられた。そのため本研究においてもやや遅れが生じた。(遅れている主な部分としては、KELを生産するための遺伝子破壊株の作製を完了したものの、その解析を保留にしていることである。)今後の状況も未だに予測できないが、臨機応変に対応する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において今後行うことは、KEL生産株の解析およびMA生産株の作製とその解析である。KEL生産株の解析についてはまず、LC-MSによりKELが実際に蓄積されているかどうかを確認する。MA生産株の作製については、2つの遺伝子の破壊まではすでに完了しているため、外来遺伝子の導入を行う。 新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、実験全般で遅延が生じているが、特にLS-MS解析においてその影響が大きい。LS-MS解析についてはその解析装置が共用のものであり、解析の一部を管理者に委託しているからである。そのため本研究における優先順を再検討して進めていく予定である。具体的には、KEL生産株のLC-MSによる解析は保留にしておき、MA生産株の作製を進める。またMAの分析については、HPLCを使った手法が過去の研究で報告されていることから、その手法を参考にして行う。そして、新型コロナウイルス感染症の拡大が落ち着いて本学が通常に機能し始めた後に、KEL生産株やMA生産株のLC-MS解析に取り掛かる予定である。
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Causes of Carryover |
物品費については、本研究においてやや遅れが生じていることから、遅れている部分の実験の使用分を次年度に持ち越した。旅費については、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で学会が部分的に中止になったため、本年度使用額が生じなかった。次年度に学会発表を増やす可能性があるため、次年度使用に回した。人件費・謝金については、LC-MS解析における実験に遅れが生じたため、その担当者への謝金が発生しなかった。本実験は次年度に持ち越した。その他については、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で学会が部分的に中止になったため、本年度使用額が減額した。こちらも次年度に学会発表を増やす可能性があるため、次年度使用に回した。
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