2019 Fiscal Year Research-status Report
誰が石油分解を“先導”するのか?:BONCAT法を用いた石油分解の鍵微生物の探索
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19K15738
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
守 次朗 横浜市立大学, 理学部, 助教 (10835143)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メタゲノミクス / 石油分解微生物 / 土壌微生物群集 |
Outline of Annual Research Achievements |
石油系炭化水素の生分解能を有する、高度に選抜された土壌細菌群集を対象として、群集中で石油生分解を”先導”する細菌種を特定するための諸実験を遂行した。 まず、多種の炭化水素から成るディーゼル油を与えて培養した細菌群集に対し、ディーゼル油もしくは単一の炭化水素(アルカン類および芳香族)を唯一の炭素源・栄養源として与えて継代培養し、それぞれの培養物中で増殖した細菌群集の構造を細菌16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンスにより解析した。その結果、群集中で優占的に生育するPseudomonas属とSphingobium属がそれぞれアルカン類、芳香族炭化水素の生分解を主として担っていたことが示唆された。 さらに、ディーゼル油を与えて増殖した細菌群集をショットガンメタゲノム解析に供し、主要な細菌属についてそのゲノム情報の詳しい解析を行った。細菌群集中には少なくとも12の細菌属が存在し、そのうち主要な6の細菌属について、ゲノムビニング法によるゲノム情報の再構築に成功した。結果、Pseudomonas属とSphingobium属のみが、アルカン類、芳香属炭化水素生分解経路の初期段階に関わる重要な酵素群をそれぞれゲノムに有していることがわかった。この2属に共存して増殖した他の主要細菌属については、それぞれ単独では複雑な炭化水素を利用して増殖できず、Pseudomonas属とSphingobium属の代謝産物を得ることで生育していることが示唆された。また、これらの主要な細菌属についてそれぞれ分離株を得て、各種炭化水素を与えた培養試験に供したところ、こうしたゲノム解析の結果を支持する結果が得られた。 上記の成果により、細菌群集中における石油生分解のパイオニア細菌種の特定に成功した。これは、本研究の中心的な問いである「誰が石油分解を”先導”するのか?」について、一つの解を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
石油生分解土壌細菌群集中の「誰が石油分解を”先導”するのか?」という本研究の中心的な問いについて、細菌群集のメタゲノム解析によって、一つの解を得ることができた。 まず、当初の計画通り、ディーゼル油を与えて培養した群集中でバイオフィルムを形成する細菌群集と浮遊性の細菌群集とを分画し、それぞれの群集構造を比較する実験を行なったが、それぞれの画分において群集構造の大きな差異は認められなかった。そこで、異なる炭素源を与えて群集構造を比較する実験を行い、また、ショットガンシーケンス解析によって主要な細菌種のゲノム情報の詳しい解析を行うことで、主要な細菌種のそれぞれの役割を解明することをめざした。その結果、群集中で優占的であったPseudomonas属とSphingobium属が石油分解のパイオニア種として増殖し、他の細菌種がこれら2属に依存する形で増殖していたことが強く示唆され、当初の予想以上の成果を得ることができた。この成果は、石油系炭化水素曝露下での土壌微生物生態系の形成について、新たな知見を与えるものである。得られた研究成果について、第33回 日本微生物生態学会(山梨大学)にて口頭発表を行い、また、学術論文を投稿した(Environmental Microbiology誌、査読中)。 一方で、BONCAT(-FISH)法を用いた細菌群集のモニタリングに関しては、そのプロトコールの確立に課題を残しており、大きな成果を得るに至っていない。今後、観察する細菌群集の培養期間の長さや試料の固定法、染色法について、最適なプロトコールを模索していく。
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Strategy for Future Research Activity |
石油生分解土壌細菌群集にディーゼル油を与えた培養物中において、出現した凝集性の細菌群集と浮遊性の群集との間で、その構造に大きな差異が認められなかったことは、当初の予想に反する結果であった。今後、着目すべき点としては、培養期間の長さがあげられる。すなわち、遺伝子解析に供するにあたって十分な菌体DNA量が得られた培養4日目の時点では既に、石油にいち早く凝集した細菌によって形成された凝集体(バイオフィルム)に他の細菌種も多く共凝集しており、さらにその凝集体からそれぞれの細菌種が拡散し浮遊していた可能性が示唆される。これにより、凝集性と浮遊性の各画分で細菌群集構造に大きな違いが現れなかったと考えられる。したがって、特定の微生物種による石油成分への凝集をより初期の時点で詳しく観察するためには、より短い培養期間において、顕微鏡を用いた培養物のモニタリングが重要になると考えている。そこで、今後、BONCAT(-FISH)法を用いたモニタリング試験を行うにあたり、培養初期の試料であっても検鏡に十分な細菌細胞数を得るため、試料の最適な固定法、染色法を模索していく予定である。 メタゲノム解析で得られた結果にしたがえば、群集中において複雑な炭化水素の生分解を主として担い、さらにバイオフィルムも形成できるPseudomonas属とSphingobium属は、培養初期において石油成分にいち早く凝集すると予想される。これらのうち、Pseudomonas属を特異的に標識するFISH用蛍光プローブを作製済みである。しかし、Sphingobium属の蛍光プローブについては既存の文献が少なく、今後、最適なプローブを設計する予定である。 以上の試みにより、BONCAT(-FISH)法の実験プロトコールを確立し、細菌群集のモニタリング試験により、先のメタゲノム解析の結果を立証する成果を得ることをめざしていく。
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Causes of Carryover |
当該年度は計画通りに支出しており(残額410円)、次年度以降の計画に変更は無い。
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Research Products
(2 results)