2019 Fiscal Year Research-status Report
独立栄養性細菌の新規アミノ酸生合成経路探索を通じた炭酸固定代謝の理解
Project/Area Number |
19K15745
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
千葉 洋子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (70638981)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | アミノ酸生合成 / 新規酵素 / 炭酸固定経路 / 代謝進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、深海熱水孔から発見され、進化的に古い特徴を残していることが期待される好熱性独立栄養性細菌のグリシンおよびセリンの生合成経路を明らかにすることである。そして様々な微生物における炭酸固定経路およびアミノ酸生合成経路の多様性を包括的に理解することで、初期生命の姿および進化について新たな知見を得ることを目指す。 今年度は、安定炭素同位体標識を用いた分子内安定同位体プロービングを用いて好熱性独立栄養性細菌の炭酸固定経路およびアミノ酸生合成経路を可視化した。本手法は標識された部位を特定可能であり、また感度が高く微量の試料で分析可能であるという利点がある。13C標識化合物を添加して培養した本微生物中のタンパク質を濃塩酸にて加水分解し、得られたアミノ酸をピバロイル/イソプロピルエステル誘導体化後、GC-MS分析に供した。標識された炭素の数および部位から、本菌の炭酸固定経路を推定することに成功した。また、本細菌においてセリンは既知のphosphorylated pathwayを通じて作られること、そしてグリシンはセリンから作られることが強く示唆された。 一方、本細菌は既知のphosphorylated pathwayの酵素遺伝子を欠くことから、遺伝的に新規な酵素がセリン生合成に関与していることが示唆された。そこで本細菌の菌体破砕物を用いて酵素活性測定を行ったところ、既知の酵素では使われていない補酵素依存的な活性を示すことが明らかとなった。すなわち、本菌はこれまでの酵素とは異なる補酵素依存的な新規酵素を有していることが示された。本細菌は嫌気性であるが、本新規酵素は大気下で少なとも1週間は保存可能であり、冷凍後も活性を保持可能と安定的なタンパク質であることが確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記述したことは、本研究を申請したときに記述した研究計画の1/3強の内容を含むことから、3年間というプロジェクト期間を勘案すると、控えめに判断してもおおむね順調に進展していると考えて問題ないと理解している。研究が進展している背景には、申請者および共同研究者の多大なる努力・創意工夫があったことを以下に詳述する。 まず、分子内安定同位体プロービング法により代謝の流れを可視化するために、添加する安定同位体標識化合物の濃度や期間などを最適化ための条件検討を行った。加えて、誘導体化条件にある工夫を加えることで、本菌のサンプルを効率的に誘導体化できるようになった。これにより信頼度の高いデータを得ることに成功した。 次に、新規セリン生合成酵素の発見にも多くの苦労があった。まずセリン合成酵素は脱リン酸化酵素であることから、脱リン酸化反応を触媒しうる機能未知タンパク質をin silicoにおいてリストアップし、それらを大腸菌発現させて活性を確認した。かなりの数を試したが、いずれも目的の活性を示さなかった。そこで古典的かつ基本の戦略に戻ること、すなわち研究対象である細菌の菌体自体から酵素活性を検出できるか確認することにした。本細菌は増殖が悪く生化学試験に足る菌体量を集めることが困難であるため本手法は敬遠していたのだが、大量培養法を確立し、それでもかなりの労力と時間をかけて菌体を集めた。そして、既知の本酵素活性には不要なある補酵素を加えて活性を測定するという工夫を凝らしたことで、目的の活性を検出することができた。また、補酵素依存性という性質を見つけたことで、本酵素をin silicoで探索することが格段に容易になると期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.新規セリン生合成酵素遺伝子の同定: 本好熱性独立栄養性細菌は増殖が弱く、菌体から活性を指標にタンパク質を精製し、新規セリン生合成酵素を同定することが極めて困難である。そこでリバースジェネティクスの手法を用いることにする。具体的には、本好熱性独立栄養性細菌のゲノム中から、補酵素依存性を指標に新規セリン生合成酵素候補遺伝子をリストアップする。そしてそれら遺伝子を大腸菌にて発現させ、実際に予測される活性を有するか確認する。 2.新規セリン生合成酵素の生物間分布: 同定された酵素遺伝子のホモログがどのような生物に存在するかin silicoレベルで明らかにする。必要があればそれらホモログが本当に新規セリン生合成酵素であるかを大腸菌発現・酵素活性測定により生化学的にも確認する。 3.セリン生合成酵素と炭酸固定経路のタイプに相関関係があるかの検討: 様々な独立栄養性微生物の炭酸固定経路の種類とグリシン・セリン生合成経路の種類をリストアップし、そこに関係性があるかどうかを検討する。特にphosphorylated セリン生合成経路に関与する酵素はその遺伝的バックグラウンドによって既知のものはタイプ1、2、3に分類され、今回タイプ4が同定される予定なのでそれぞれどのタイプを有するかも明らかにする。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由には主に下に挙げる2点がある。1点目は感染症の流行により参加を予定していた学会が中止となり、旅費が大幅に減少したことである。2点目はGC-MSの受託分析数が想定を下回ったことにある。これは共同研究者が開発した新手法を用いることで、GC-MSに供さなくても安定同位体プロービングが適切になされているか確認することが可能になったため、受託分析に供するサンプル数を減られたからである。 本プロジェクトでは期待以上の興味深いデータが得られ始めているので、来年度以降は国際学会での発表等を積極的に行いたいと考えており、繰越額はそのために使用したい。
|