2019 Fiscal Year Research-status Report
オーキシン代謝不活性化経路の同定を目的としたケミカルバイオロジー研究
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19K15761
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
福井 康祐 岡山理科大学, 理学部, 講師 (80761147)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オーキシン / 代謝阻害 / GH3 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019度は、報告者が見出したGH3阻害剤の標的選択性を評価するため、オーキシンの代謝活性があると言われている4種の酵素遺伝子(GH3, DAO1, IAMT1, UGT84B1)を過剰発現する組換えシロイヌナズナを用いて、生物試験を行った。GH3, IAMT1, UGT84B1を過剰発現させた植物ではオーキシン欠乏を示す表現型が見られたのに対し、DAO1を過剰発現させた植物では野生型と比較して顕著な表現型の違いは見られなかった。これらの植物に対し、GH3阻害剤を処理すると、GH3過剰発現株でのみオーキシン欠乏からの回復が見られ、野生型と同様の形態を示した。また、DAO1過剰発現株ではGH3阻害剤処理により、オーキシンの蓄積を示す表現型が観察され、GH3阻害剤に対して野生型と同程度の感受性を示した。これらの実験から、GH3阻害剤はGH3酵素のみを選択的に阻害すると考えられ、またDAO1酵素のオーキシン代謝活性は他の酵素に比べて非常に低いと考えられた。 次に、GH3阻害剤により誘導されるオーキシン蓄積を示す形態が、内生のオーキシンの蓄積に依存することを確かめるため、オーキシン生合成遺伝子の欠損株と、生合成阻害剤を共用して実験を行った。その結果、オーキシン生合成遺伝子の欠損株ではGH3阻害剤によるオーキシン形態が緩和され、未処理の野生型と同程度の形態を示した。オーキシンレポーターラインを用いて予備的な検討を行ったところ、GH3阻害剤処理後1時間程度でレポーターラインの応答が見られたことから、GH3酵素を阻害すると比較的短時間で内生のオーキシンが蓄積することを示唆する結果と考えられた。また、大腸菌を用いて作成した組換えGH3酵素を用いた実験でも、GH3阻害剤が酵素反応を阻害することを確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度予定していた実施計画のうち、前半までに終了を予定していたGH3酵素の高選択的かつ高活性な阻害剤の創製は達成できたと考えている。研究実績の項目で述べたように、創製・選抜したGH3阻害剤は、試験管内の酵素反応においてもGH3酵素活性を阻害することが明らかとなり、植物体を用いた試験においてもGH3酵素の機能を阻害する結果を得ることができた。また、植物を用いた試験では他のオーキシン代謝酵素を阻害する傾向は観察されなかった。この結果を受けて、当該目標を達成したと結論づけた。 一方で、2019年度後半から取り組む予定だったGH3阻害剤を用いた代謝物分析は予定通りに取り組めておらず、2020年度前半での迅速な実験を必要とする。しかしながら、GH3経路を阻害すると比較的短時間で内生オーキシンが蓄積することが判明したため、2020年度前半までを目標としていたGH3の役割の解明とオーキシン代謝の主経路の同定に関して、大きく進捗したと考えている。現在のところ、報告者はGH3酵素が担う代謝経路はオーキシンの恒常的かつ主要な代謝経路であると考えており、2019年度は当仮説を裏付ける説得力のある実験結果が得られたと考えられる。また、2020年度後半に予定していたマイクロアレイ等による遺伝子発現解析に代わり、次世代RNAシーケンサーを用いたトランスクリプトームを約1年前倒しで行った。まだ十分な解析が終わっていないが、GH3阻害剤処理によりオーキシン処理と同様の遺伝子発現傾向が見られている。 以上のことから、概ね順調に研究が進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、GH3阻害剤処理により内生オーキシンがどのようなタイムコースで蓄積し、対応する遺伝子発現が継時的にどのような変化を示すのかを明らかにすることを中心に研究を進める。本研究課題では、オーキシンの濃度制御機構において代謝不活性化経路が担う役割に焦点を当てることを目的としているため、オーキシン代謝経路においてGH3酵素が恒常的かつ主要な経路であることを示すことは非常に重要である。そこで、実験内容として以下のいくつかの実験に注力して研究を行う。 一点目は、GH3阻害剤を用いた代謝物分析である。GH3阻害剤を処理することで内生のオーキシンが蓄積することを明確に示すとともに、比較的短時間で蓄積することを明らかにするため、GH3阻害剤を処理してからの継時変化を調べる。二点目は、リアルタイムPCRを用いて、GH3阻害剤処理によるオーキシン応答性遺伝子の発現変動を継時的に明らかにする。またオーキシン処理と比較して応答にどの程度の時間差があるのかを明らかにする。三点目は、オーキシンレポーターラインを用いたGH3阻害剤処理に対する応答を、継時的にかつ定量的に解析する。以上三点で、GH3経路がオーキシンの代謝不活性化において恒常的かつ主要な役割を担うことを示す。次に四点目として、種々のオーキシン関連の欠損変異体や過剰発現株を用いて、GH3阻害剤処理による形態の変化を定量的に比較する。主に主根長や側根密度を比較することにより、GH3阻害剤がGH3経路のみを選択的に阻害した結果、植物の形態がオーキシンを処理した場合と同様に変化することを定量的に示す。 そのほか、2020年度初期にこれまでのデータをまとめ、論文を執筆するにあたり不足しているデータや証拠能力の低い実験データの補強実験などを適宜行う。
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Causes of Carryover |
2019年度末に委託分析を依頼した次世代シーケンスの金額が確定するのが遅く、予算に余裕を持たせておいたが、予想よりも安価に済んだため残額を2020年度に繰り越すことにした。 2019年度の次年度使用額に関しては、主に消耗品費として実験の進捗に役立てる予定である。
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