2019 Fiscal Year Research-status Report
鉄代謝制御による細胞増殖制御機構とその生理機能の解明
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19K15810
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山内 隆好 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (60747624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞内鉄代謝 / 細胞増殖 / ユビキチンリガーゼ / FBXL5 / IRP2 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、細胞内鉄の過剰な蓄積や欠乏が細胞増殖へ影響をもたらす際の分子機構の一端を解明することである。当該年度においてはまず①鉄代謝制御因子FBXL5の欠損細胞の作成とその評価を行った。テトラサイクリン系薬剤選択的なCas9遺伝子の誘導系の構築を試み、実際にFBXL5特異的なガイドRNAの導入によるFBXL5タンパク質の薬剤添加依存的な減少とFBXL5の制御下にある鉄代謝制御因子IRP2、フェリチン、TfR1といった鉄代謝関連因子群の発現変動を確認した。また、同細胞における鉄量モニタリングの評価系として、当研究室で検討を重ねていた鉄濃度依存的な蛍光レポーターシステム(鉄結合ドメイン-Venus融合タンパク質)の適用可能性を評価・検討しその有用性に関するデータを得た。その後、作成した細胞を用い遺伝学的スクリーニングを行い、細胞内鉄濃度の変化をもたらす遺伝子を複数同定する事に成功した。ただし、既知の重要な鉄代謝制御因子のうちで同定されていないものがあるためその結果は今後2次的な評価実験を行う事で慎重に検討する必要がある。今後は、これら同定された新規遺伝子および既知の文献から予想される候補分子(CDC14AとNR4A3、およびEGR2)に関する有意性の評価実験を行い候補遺伝子の絞り込みを行う。また、有意性が高いと検証された細胞増殖関連遺伝子について、それらが鉄代謝の下流で細胞運命の決定にどう関わるかを細胞増殖、足場非依存的増殖能や細胞運動などの細胞表現型を評価する事により検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず本研究の研究計画である、「①細胞内鉄量を変化させた細胞の作出」を行うべく鉄代謝制御因子FBXL5の欠損細胞の作成とその評価を行った。欠損細胞株の作成手順としては、テトラサイクリン系薬剤選択的なCas9遺伝子の誘導が可能な細胞株をまず作成し、そこへFBXL5特異的なガイドRNAの導入を行った。薬剤誘導開始5日後の細胞抽出液を用いたウエスタンブロットによる評価を行うことで、実際にFBXL5タンパク質の薬剤添加依存的な減少とFBXL5の制御下にある鉄代謝制御因子IRP2の蓄積が認められた。細胞内鉄量のモニタリングに用いる評価系としては、「細胞内鉄濃度の上昇に比例して安定化する鉄結合ドメインを蛍光タンパク質であるVenusと組み合わせたもの(鉄結合ドメイン-Venus融合タンパク質)の、鉄濃度依存的な蛍光レポーターシステムの構築を試み、用いることとした。実際に、この融合タンパク質の導入後、鉄過剰もしくは鉄キレート剤の処理による融合タンパク質の安定化・不安定化依存的な蛍光強度の増減を確認した。次に、これらの細胞を用いて研究計画②の、「鉄動態に応じた細胞増殖能の制御に関わる分子群の同定」を試みた。ヒトゲノムに対応する176,500種類のCRISPRライブラリーを導入しゲノム中の個々の遺伝子を各々の細胞でランダムに欠損した鉄結合ドメイン-Venus融合タンパク細胞株を培養し、蛍光強度の強弱を指標としてセルソーターで細胞を分離(蛍どう光強度の高い上位5%と下位 5%)後、特異的に変化するシーケンス情報を比較した。今回、ポジティブコントロールとなる鉄濃度の蓄積(=蛍光強度の高いもの)をもたらすFBXL5の欠損や、逆に鉄濃度の減少をもたらすIRP2の欠損が優位な差として挙がってきておらず、これらの点については今後の検討が必要だと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究計画を達成するため、まず今回行ったCRISPRスクリーニングの結果で優位な差として得られたFBXL5やIRP2以外の遺伝子についての評価実験を行う。今回作成したFBXL5欠損細胞株への鉄キレート剤の処理後の候補遺伝子の発現量を調べるとともに、候補遺伝子を細胞株種で欠損させた時の鉄依存的な細胞増殖への関与を調べる事で有意性の評価を行い絞り込みを行う。また、既知の文献から予想される候補分子の評価実験として、細胞周期関連因子CDC14AとNR4A3、およびEGR2それらの発現量をFBXL5欠損細胞において変異型Cas9により上方制御させ、それらの細胞増殖における表現型の変化を個別に検討する。その後、これらの実験で有意性が高いと検証された細胞増殖関連遺伝子について、それらが鉄代謝の下流で細胞運命の決定にどう関わるかを細胞増殖、足場非依存的増殖能や細胞運動などの細胞表現型を評価する事により検証する。また、これまでに申請者らは、FBXL5を欠損したマウス胎生期神経幹細胞の過剰増殖 [Mol. Cell. Biol. 37, e00470-16 (2017)]や、FBXL5を欠損した肝臓での発癌促進 (未発表データ)を見出してきた。そこで、スクリーニングにより同定・評価された新規鉄代謝関連分子群の発現変動がこれらのマウスモデルにおける細胞の過剰増殖の原因であるかを調べるため、評価された候補遺伝子に対する阻害剤の投与や、これまでに申請者らが検討してきたアデノ随伴ウイルスベクターを用いた生体への局所的な遺伝子導入法[Cell 171(7):1495-1507. (2017)] によってこれら病態の改善が見られるかどうかを調べる。
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Causes of Carryover |
当該年度における実際の物品費用を当初の予定額と比較して低く抑えることができたため、また新型コロナウイルスの影響による学会等のキャンセルに掛かる旅費の削減のために、319,586円の次年度使用額が生じた。次年度使用額としては、主に物品費用や関連学会への出席等に掛かる費用として使用する予定である。
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