2019 Fiscal Year Research-status Report
核ゲノムと細胞質ゲノムの協働作用から解明するバレイショの四分子型雄性不稔性
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19K15813
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
實友 玲奈 帯広畜産大学, 環境農学研究部門, 助教 (20716378)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バレイショ野生種 / 細胞質雄性不稔性 / ミトコンドリア / 種間交雑 / 遺伝資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞質マーカーを用いて40アクセッションのS. stoloniferum(sto)の細胞質型を調べた結果、D/α型、D/γ型、W/α型、W/γ型がそれぞれ7、20、3、および10系統検出された。次に、どのstoが四分子型細胞質雄性不稔性(T-CMS)系統を産出するのかを明らかにするために、24アクセッションのstoを母親に用いて4倍体栽培種(S. tuberosum)と交配試験を行った結果、4,839交配花中、12アクセッションのstoに由来する41の雑種が得られた。これらの雑種を育成し花粉稔性を調べた結果、T-CMS型が19系統観察され、それらはすべてγ型を有した。一方で、γ型であっても正常花粉を産出する系統が観察されたことから、必ずしも全てのγ型のstoがT-CMSを起こすわけではないことを明らかにした。 T-CMSと関連するミトコンドリアゲノム領域を探索するために、15系統のstoを用いて、28のミトコンドリア遺伝子および遺伝子間領域を増幅するプライマーを設計し、増幅産物の配列を解読し比較した。その結果、15系統内においてatp1、atp6、およびnad3に一塩基多型や挿入/欠失が検出された。また、cobとrps10およびrpl5とrps10の遺伝子間領域を増幅するCobプライマーとrpl5プライマーを用いた時、複数バンドが多型を示した。これらの多型とT-CMSとの関連を調べた結果、唯一、rpl5プライマーで増幅された860 bpに存在するバンドの有無がT-CMS型と対応した。その後、全ての雑種とそれらの細胞質親のstoを用いて解析した結果、T-CMS型の雑種およびそれらの親系統は全てこの860 bpのバンドを有し、正常花粉を産出する雑種および親系統にはバンドが検出されなかった。よって、この領域がT-CMSと関係している可能性が高いことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
T-CMSに関わるミトコンドリア遺伝子を明らかにするために、次世代シーケンサーを用いてstoと栽培種を交配して得た2系統のT-CMS型を含む異なるアクセッションのstoに由来する4系統の種間F1雑種(sto雑種)およびT-CMSを有する品種Alwaraのミトコンドリアゲノム配列を解読した。公開されている品種Desireeの3つのミトコンドリアリファレンスゲノム(M01、M02、M03)を用いてマッピングを行った結果、1系統あたり3本から7本のcontigとしてミトコンドリアゲノム配列が得られた。それらの遺伝子配列の比較を行った結果、リファレンス配列とは異なる2種類の構造変異を持った分子が3系統のsto雑種およびAlwaraで検出された。それらはM01とM02上の遺伝子が融合した形で存在しており、そのうち1種類の分子における構造変異の起点(M01とM02の接合部位)は、私たちが設計したrpl5プライマーで検出した860 bpの配列と相同性を持っていた。現在それらの配列とT-CMSとの関係を調査するために、構造変異分子の融合点となる部位にプライマーを設計し、全てのstoアクセッションおよび雑種を用いてその有無を調べている。 また、核ゲノム上に存在すると考えられている稔性回復遺伝子を明らかにするために、T-CMSを示す種間F1雑種へ母親に用いたstoを2回に渡って戻し交配し、2系統のBC2雑種を得た。それらの花粉稔性を調べた結果、1系統では正常花粉を産出し、花粉稔性か回復していた。この系統を用いて再度栽培種と交配しT-CMS分離集団の作出を試みている。 また、染色体倍加を行って得た8倍体stoを花粉親にして、T-CMSを有する4倍体栽培種ないしはsto雑種に交配を行うことで、stoのゲノムを全て有する雑種の作出を試みている。これによって花粉稔性が回復したかを今後調べる。
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Strategy for Future Research Activity |
① ミトコンドリアゲノムの解読によって明らかになったsto内に存在する構造変異を持ったミトコンドリア分子が、T-CMSとどのように関わっているのか調べるために、正常型と構造変型を識別できるプライマーを設計し、stoおよびstoと栽培種の雑種において、構造変異分子の存在を明らかにする。次に同植物体の花粉および葉からRNAを抽出し、正常型と構造変型を持つ系統で遺伝子発現に違いがあるのかを調べる。これによってミトコンドリア遺伝子上に存在するT-CMSを引き起こす原因遺伝子を同定できると考える。 ② 8倍体stoを用いて得られた種子を播種し、花粉稔性を調べ、稔性が回復するのかを明らかにする。また稔性回復が見られたBC2系統と栽培種を交雑し、得られた雑種において稔性回復個体が分離するのかどうかを明らかにする。 ③ T-CMSが発生するメカニズムを解明するために花粉の生育段階を追いながら顕微鏡下で観察し、T-CMSが発生する時期を特定するとともになぜ四分子期の状態で花粉の成長が止まるのか考察する。次にその花粉生育ステージを中心に時系列的に未熟葯からRNAを抽出し、花粉の生育に関わる遺伝子特異的なプライマーを設計し、発現比較を行い、T-CMSに関わる核側因子の同定を試みる。
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