2020 Fiscal Year Research-status Report
核ゲノムと細胞質ゲノムの協働作用から解明するバレイショの四分子型雄性不稔性
Project/Area Number |
19K15813
|
Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
實友 玲奈 帯広畜産大学, 環境農学研究部門, 助教 (20716378)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 細胞質雄性不稔性 / バレイショ / Solanum stoloniferum / ミトコンドリア / 種間雑種 |
Outline of Annual Research Achievements |
Solanum stoloniferum(sto)と栽培種との種間雑種を形成した際に四分子型細胞質雄性不稔性(T-CMS)を引き起こす系統と引き起こさない系統を見出し、T-CMS型の雑種およびそれらの親系統のみが有する859 bpのバンドを発見した。この領域がT-CMSと関係している可能性が高いことを論文にまとめ、2020年10月に投稿、2021年4月にGenetic Resources and Crop Evolutionの雑誌に受理された(Sanetomo and Nashiki 2021)。 T-CMSに関わるミトコンドリア遺伝子を明らかにするために、次世代シーケンサーを用いてsto由来の4系統の種間F1雑種およびT-CMSを有する品種Alwaraのミトコンドリアゲノム配列を解読した。それらの遺伝子配列の比較を行った結果、リファレンス配列とは異なる構造変異を持った新規ミトコンドリア分子がT-CMSを示す2系統のsto雑種およびAlwaraで検出された。その新規分子の構造変異の起点となるrpl5とnad6遺伝子の間の約1700bpの遺伝子間領域は上記の論文で発表したT-CMS特異的な859 bpの配列と相同性を持っていた。40系統のstoと39系統の種間雑種を解析した結果、T-CMS型の雑種およびそれらの親系統のみがこの変異型ミトコンドリアゲノムを有していることが分かった。現在この成果を論文にまとめている。 核ゲノム上に存在すると考えられている稔性回復遺伝子を明らかにするために、T-CMSを示す種間F1雑種へ8倍体stoおよび4倍体stoを再交配したBC1雑種集団を育成した。19系統群99個体の花粉稔性を調べた結果、38個体の花粉染色率が50%以上となり花粉稔性が回復していた。従って、stoを戻し交配することでT-CMSの花粉稔性を回復させることが可能であることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リファレンスゲノム上では別分子として存在している遺伝子同士が繋がっている新規ミトコンドリア分子に特異的に存在するrpl5とnad6の遺伝子間領域がT-CMSに関わっている可能性が見いだされたために、T-CMSを示す雑種およびその親のstoから花粉のRNAを抽出し、その領域の遺伝子発現をqRT-PCRで解析した。その結果、rpl5に近い領域では発現しておらず、nad6に近い領域では高い発現量を示した。従って、この遺伝子間領域に新規のorfが形成された可能性が考えられた。そこで現在、花粉の全ゲノム遺伝子発現解析を行い、新規orfの探索を行っている。 核ゲノム側に存在する稔性回復に関わる遺伝子を探索するために、T-CMSを示す種間F1雑種へ8倍体stoおよび4倍体stoを再交配したBC1雑種集団を育成し、花粉稔性が回復した個体を作出することができた。これによって、T-CMSの稔性回復遺伝子の存在が明らかになった。しかし、BC1雑種の倍数性を調べた結果5倍体から8倍体の高次倍数性の異数体であり、この効果により遺伝モデルの構築および遺伝解析が困難となった。そこで、stoと同様に種間雑種でT-CMSを示すことが報告されている2倍体バレイショ野生種のS. verrucosum (ver)を用いて2倍体栽培種と交配し、T-CMSを示す雑種を作出した。これらにverを戻し交配することで、稔性回復系統の作出および稔性回復遺伝子のゲノム分析を行う2倍体をベースにした研究へ変更した。
|
Strategy for Future Research Activity |
① ミトコンドリアゲノムの解読によって明らかになったsto内に存在する構造変異を持った分子の中に新規のorfが形成されたのか調べるために、イルミナショートリード次世代シーケンサーにより花粉の全ゲノム遺伝子発現データを取得し、発現解析を行い、新規orfの探索を行う。orfが発見された場合は組織特異的な発現なのかどうかをqRT-PCRで確認し、T-CMSの原因遺伝子かどうかを明らかにする。 ② T-CMS雑種にverを戻し交配したBC1集団および、BC1集団の中で花粉稔性が高かった系統の自殖種子および花粉稔性が高い系統とT-CMSのままの系統から育成した集団の種子を播種し、それぞれの集団の花粉稔性を調査しその結果から遺伝モデルをたて、一遺伝子による効果なのかどうかを検証する。そして、花粉稔性が非常に高い稔性回復系統群と、T-CMSのままの非回復系統群を作り、それらのDNAを用いて次世代シーケンサーによるゲノムデータ取得とComparative Subsequence Sets Analysis(CoSSA)を行うための準備を整える。
|