2019 Fiscal Year Research-status Report
南極大陸産コケ植物からの環境ストレス耐性遺伝子の単離および分子育種への応用
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19K15831
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大谷 真広 新潟大学, 自然科学系, 助教 (30768841)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 極限環境生物 / コケ植物 / 遺伝子単離 / 系統解析 / ストレス応答 / 南極 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は主に以下の4点について検討を行った。①乾燥・冷凍サンプルからのコケ植物体の再生:本研究で用いたコケ植物のサンプルは南極大陸昭和基地周辺露岩域において複数地点のコケ群落から採集後、乾燥・冷凍状態で約半年間保存された。これらのサンプルについて、人工栽培による植物体の再生を試みたところ、バーミキュライトにBCD液体培地を加えた培地が植物体の再生に適しており、結果として15サンプル中14サンプルについて植物体の再生に成功した。②ITS領域の塩基配列解析による系統解析および種の同定:①において再生された植物体についてITS領域の塩基配列比較による系統解析および種の同定を行った。その結果、今回解析を行ったサンプルの多くは全世界的に分布しているオオハリガネゴケ (Bryum pseudotriquetrum) とヤノウエノアカゴケ (Ceratodon purpureus) であった。パッダ島で採取されたサンプルは南極大陸の固有種であるハリギボウシゴケ (Coscinodon lawianus) であった。また一部のサンプルについては複数の種が混在して存在していることが明らかとなった。③DREBホモログ遺伝子の単離:南極大陸固有種であるハリギボウシゴケから植物で共通にストレス応答鍵遺伝子として機能するDREBホモログ遺伝子の単離を試みた。これまでに3'RACE法による遺伝子断片の増幅により、推定DREBホモログ遺伝子の部分配列が複数得られている。④RNA-seq解析用サンプルの調整:オオハリガネゴケを研究材料として、サンプリング後直ちに固定液で固定したサンプルと実験室内で人工的に栽培しているサンプルを用いてRNA-seq用ライブラリーの調整を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定されていた時期よりサンプルの到着が遅延したため研究の進捗への影響が懸念されたが、検討事項①において予想を超えてコケ植物体の生育が旺盛であったため、ほぼ予定通りに研究が進展している。検討事項②においては、各種のコケ植物のITS領域の配列情報がデータベースに蓄積されており、スムーズに種を同定することができた。また本研究で使用したサンプルには南極大陸固有種であるハリギボウシゴケが含まれていた。そこで当初予定からの更なる発展として検討事項③に取り組んだ。現在、すでに推定DREBホモログ遺伝子の部分配列が得られているため、今後予定している全長配列の単離、発現解析、および機能解析は迅速に完了できると予想している。検討項目④において、固定液中で長期保存したサンプルからのtotal RNAの抽出は通常法では非常に難しかったが、複数の抽出・精製方法を組み合わせることにより、比較的高純度に抽出することが出来た。既にRNA-seq用ライブラリーの作製は完了しており、今後次世代シークエンサーを用いた解析を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に実施した検討事項の継続として、①RNA-seq解析による南極大陸におけるオオハリガネゴケの遺伝子発現プロファイルの調査、②ハリギボウシゴケからの5'-RACE法によるDREBホモログ遺伝子の全長の単離、③DREBホモログ遺伝子の発現解析による各種環境ストレスへの応答性の調査、④DREBホモログ遺伝子を導入した形質転換体の作出による機能解析を実施する。なお①において興味深い環境ストレス応答遺伝子が見出された場合には、それらの遺伝子についても単離および詳細な解析を実施する予定である。これらの研究を通して、南極大陸に自生するコケ植物の生存メカニズムを考察する。また南極産コケ植物に由来するストレス応答遺伝子の分子育種への応用も検討する。 現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため研究室における研究活動がほぼ停止している。今後の情勢によっては研究の進展への影響も懸念される。
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Causes of Carryover |
当初、2019年度には遺伝子解析を学外機関へ外注するための経費を計上していたが、学内共通機器が使用できることになったため外注はせず、関連するキットや試薬類の購入費用、および実験補助者への謝金に充てた。この理由から、直接経費の一部を次年度に繰り越すこととなった。
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