2020 Fiscal Year Research-status Report
南極大陸産コケ植物からの環境ストレス耐性遺伝子の単離および分子育種への応用
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19K15831
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大谷 真広 新潟大学, 自然科学系, 助教 (30768841)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 極限環境生物 / コケ植物 / 遺伝子単離 / トランスクリプトーム解析 / 発現解析 / ストレス応答 / 南極大陸 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は主に以下の2点について検討を行った。①南極固有種のハリギボウシゴケ (Grimmia lawiana) からのDREBホモログ遺伝子の単離および発現解析:南極大陸固有種であるハリギボウシゴケからストレス応答遺伝子であるDREBホモログ遺伝子の単離を試みた。3'RACE法による遺伝子断片の増幅により、DREBホモログ遺伝子の部分配列が得られ,GlDREB1と名付けた.GlDREB1の発現量は塩ストレス処理から数時間後に一過的に70~80倍上昇した.一方,乾燥および低温ストレス処理では大きな発現変動を示さなかった.したがって,今回単離されたGlDREB1は塩ストレスへの応答に関与していることが示唆された.② RNA-seq法による南極産オオハリガネゴケ (Bryum pseudotriquetrum) のトランスクリプトーム解析:南極に自生するオオハリガネゴケを採取後ただちに固定したサンプルと実験室内の穏やかな条件 (15 °C) で栽培したサンプルについてトランスクリプトームを比較したところ,南極環境においては脂質代謝関連遺伝子および油滴形成関連遺伝子の発現が高まっていることが示された。一方で,植物において共通のストレス応答遺伝子群の多くが発現量に違いを示さなかった.植物においては細胞への脂質の蓄積が各種の環境ストレスに対する耐性に寄与していることが明らかとなっている.したがって,これらのコケ植物においては主に細胞内の脂質代謝を改変することで南極の極限環境を生き抜いているという可能性が示された.また一方で,南極環境下では多くの光合成関連遺伝子の発現量が低下していた.これは南極特有の強烈な紫外線へ対抗するための反応であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在の新型コロナウイルスの蔓延により研究の進捗への影響が懸念されたが、ほぼ予定通りに検討事項①および②を実施することが出来た.なお,検討事項②の内容については,オンライン開催された新潟大学KAAB国際シンポジウムにおいてポスター発表にて研究成果を報告した.また,検討事項②において脂質代謝遺伝子の発現が上昇していることが明らかとなったことから,当初は予定していなかったコケサンプルの脂肪酸分析についても一部完了している. 以上の通り,本研究はおおむね当初の予定通りに順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に実施した検討事項の継続として、①5'RACE法による完全長GlDREB1遺伝子の単離および形質転換体作出による機能解析、②ハリギボウシゴケからのHeat Shock Protein (HSP) 遺伝子の単離および解析、③形質転換体作出によるオオハリガネゴケ由来脂質代謝関連遺伝子および油滴形成関連遺伝子の機能解析、および④オオハリガネゴケにおいて南極環境下で発現が上昇する機能不明遺伝子の単離および機能解析を実施する予定である.これらの研究を通して、南極大陸に自生するコケ植物の生存メカニズムを考察すると共に,南極産コケ植物に由来するストレス応答遺伝子の分子育種への応用も検討する。また学会発表や学術論文の執筆により研究成果の報告を行う.
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Causes of Carryover |
今年度は,遺伝子解析に用いるキットや試薬類の購入,学内共通機器の使用料および脂肪酸分析の外注に予算のほぼ満額を使用した.したがって大きな額の繰り越しはない. 本年度生じた少額の繰り越し金については,次年度の物品購入費に充てる.
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Research Products
(1 results)