2022 Fiscal Year Annual Research Report
スギの環境適応における時計遺伝子の役割の解明: 網羅的遺伝子発現解析を用いて
Project/Area Number |
19K15876
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
能勢 美峰 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 主任研究員 等 (20582753)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 時計遺伝子 / スギ / 遺伝子発現 / フェノロジー / 遺伝子組換 / トランスクリプトーム / 年周性 / GIGANTEA |
Outline of Annual Research Achievements |
フェノロジー(生物季節)は、林業の主要樹種であるスギ(Cryptomeria japonica D. Don)の樹高や材質などの有用形質をはじめ、植栽地の気候や環境に対する適応においても、重要な役割を果たしている。時計遺伝子は、日長や温度などの環境の情報を伝達経路の下流へとつなぎ、フェノロジーを制御していると推定されている。しかし、これらの知見の多くはモデル植物である被子植物を用いた研究で得られたものであり、進化的に離れている裸子植物(針葉樹)における時計遺伝子の機能については明らかになっていなかった。本課題では、スギのフェノロジー制御における時計遺伝子の役割を明らかにするため、スギから時計遺伝子を単離し、遺伝子組換えによって時計遺伝子を過剰発現させたスギの形質転換体を作成した。組換体と野生株を特定網室(半閉鎖環境)で1年を通して育成し、形質評価を行ったところ、時計遺伝子(GIGANTEA)を過剰発現させた組換体は野生株と比較して、秋(10から12月)の成長停止時期が遅く、春(3から5月)の成長開始時期が遅いことが明らかになった。また、その分子機構を明らかにするため、年間を通して採取したサンプルからRNAを抽出し、網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq法)を用いて解析した。組換体と野生株で発現遺伝子を比較し、発現量に差のあった遺伝子数の変移を年間を通してみたところ、その数は秋(9から12月)に急激に増加していることが明らかになった。秋に発現量に差のみられた遺伝子のうち、40%以上が既報の短日応答遺伝子であることが明らかになった。これらの結果から、時計遺伝子GIGANTEAはフェノロジーの制御において重要な役割を果たしており、短日応答による秋の成長停止時期を遺伝子発現レベルからコントロールしていると推定された。
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