2020 Fiscal Year Research-status Report
溶媒デザイン技術を用いた化学改質による木材の超塑性的変形挙動の解明
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19K15890
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
阿部 充 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (50734951)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 木材 / 流動成形 / 誘導体化 / エステル化 / 熱可塑性 / 細胞間層 / 細胞壁 / ベンジル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、主に木材の誘導体化について検討した。一昨年度に行った検討から、アセチル化よりもプロピオニル化の方が木材への流動性付与の効果が高いことが分かっている。そこで、昨年度はプロピオニル化に着目して研究を進めた。トリフルオロ酢酸無水物を使った従来法に加えて、3種類の異なるプロピオニル化手法を用いてサンプルを作製した。得られたプロピオニル化木材について、加熱プレス時の流動開始応力、プレス後試験片の伸び率、試験片の顕微鏡観察を行うことで、化学処理の手法とプロピオニル化度の値が木材の流動性に及ぼす影響を精査した。その結果、手法に依らず、全てのプロピオニル化ヒノキは年輪の接線方向(T方向)に流動し、プロピオニル化度の増大に伴って流動開始応力が一様に低下した。一方、繊維方向(L方向)への流動については、プロピオニル化の手法に大きく影響されることが分かった。また、2方向への流動が生じたサンプルについてはいずれも、比較的小さな応力下でT方向への流動が生じ、それより大きな圧力が加わった際にL方向へ流動した。そこで、T方向にのみ、もしくはTとLの両方向へ流動するようにプレス圧力を変化させて、2種類のプレス木片を得た。光学顕微鏡を用いて微細構造を観察したところ、L方向へ流動した場合は木材の細胞がところどころで破断している様子が確認された。 また、熱可塑性が発現することが知られているベンジル化について、溶媒デザイン技術を用いて、より穏和な条件下で効率的に反応を進める手法を開発した。テトラブチルホスホニウム水酸化物の50%水溶液を前処理溶媒として用いることで、非加熱下で薬剤溶液に10分間浸漬させるだけで木材をベンジル化することに成功した。得られたベンジル化木材は熱可塑性を有しており、加熱プレスによって木材成分を流動させて半透明なシート状成形物を得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木材の誘導体化、特にエステル化については昨年度に引き続き大きな進展が見られた。プロピオニル化度の値が同程度であっても、木材の熱プレス時の流動性に大きな差が生じることを見出した。これは、木材中に導入された成分の構造や導入量が同じであっても、その導入方法によって木材成分の微細構造や相互作用力に大きな差異が存在し、熱プレス時の流動性というマクロな状態変化に影響を及ぼしたことを示す好例であり、流動メカニズムの解明のために重要な知見の一つとなる。また、エーテル化についても検討を進め、前処理溶媒をデザインすることで長時間の加熱撹拌を必要としない新たな化学処理プロセスの開発に成功した。得られた木粉が熱可塑性を有することも確認した。一方で、脱成分などの検討についてはとりわけ大きな進展がなかったことも勘案し、進捗状況は「(2)おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの検討で得られたプロピオニル化ヒノキについて固体NMR測定を行い、木材成分の化学構造および疎水性、運動性の違いを詳細に検討する。得られた情報と熱プレス時の降伏応力の値、ならびにプレス成形体の微細構造の観察結果とを併せて検討することで、木材の流動性を決定づける支配因子の特定と流動メカニズムの解明を試みる。 また、昨年度までの検討で開発された効率的なベンジル化手法を、木粉だけでなくブロック状の木材についても適用し、熱可塑性を有する木片の開発に挑戦する。ベンジル化以外の種々のエーテル化についても同様に検討し、導入する官能基の種類や導入量が、熱可塑性を始めとした種々の木材物性に与える影響を評価する。 リグニンやヘミセルロースなどの木材成分の除去や添加についても検討し、上述のエステル化木材と同様に評価、解析を行う予定である。リグニンに対しては水素結合供与能、多糖類に対しては水素結合受容能が高い溶媒系をデザインして、成分添加・除去溶媒として用いる。また、成分除去においては、イオン液体などを用いた溶媒抽出だけでなく、一般的な成分除去法であるクラフトパルプ法やKlaudiz法も併せて検討する。これにより、除去率や選択性などが異なる木材を幅広く調整する。
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Causes of Carryover |
旅費については、年度末に開催される学会への参加を予定していたが、新型コロナの影響で学会が中止となり、使用できなかった。その他については主に英文校正費と論文への掲載料を予定していたものである。計上されている掲載料は一昨年度末に投稿した論文のものである(BioResources, 2020, 15, 3, 6282-6298)。また、昨年度に執筆した論文(Polymers, 2021, 13, 1118.)については、英文校正費を計上した。昨年度末に当該論文が出版社に受理されたものの、印刷費用の支払いは年度を跨ぐこととなったため、次年度使用額が生じた。
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