2019 Fiscal Year Research-status Report
降海か、残留か:ニホンウナギの春機発動が回遊開始メカニズムに果たす役割
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19K15900
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩原 聖士 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 農学特定研究員 (80704501)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ウナギ / 銀化 / 産卵回遊 / 降海回遊 / 性成熟 / 春機発動 / 意思決定機構 / 個体差 |
Outline of Annual Research Achievements |
川や湖で一定の体サイズ以上に成長したウナギは、秋に銀化して産卵回遊を開始する。回遊を開始する体サイズと年齢は個体変異に富み、どんな生態学的条件を満たした個体が、どのような生理学的プロセスを経て、春機発動・銀化・回遊開始に至るかは明らかでない。これを解明すれば、ウナギの生殖生理と回遊現象の理解を大きく深めることができる。 本研究課題では、夏季に天然水系で採集した全長50cm以上のニホンウナギの黄ウナギ39個体(6月20個体、8月19個体)から、バイオプシー (生検) による卵巣試料採取および採血を行い、PITタグによる個体識別を行った後に自然環境を模した大型野外実験池に放流した。その後、11月に放流個体を回収して銀化状態を判別し、秋に銀化する個体と銀化しない個体が、夏季の時点でどのような生殖生理学的特徴を持っているのか調べた。 11月に実験池から放流個体の回収を試みたところ、34個体が回収され(回収率87%)、そのうち7個体が体側や胸鰭の金属光沢など銀化の兆候を示した。これらの7個体は眼径指数や胸鰭長指数が高く、銀ウナギに典型的な形態的特徴を有していた。 夏季の放流前に採取した卵巣試料を用いて最大卵群卵径の測定を行ったところ、秋に銀化した個体は銀化しなかった個体に比べて、最大卵群卵径が有意に大きかった。また、組織観察を行ったところ、秋に銀化した個体は銀化しなかった個体に比べて卵母細胞の発達が進行していた。さらに、血中の性ステロイドを比較したところ、秋に銀化した個体は銀化しなかった個体に比べて夏季の11-KTの血中濃度が有意に高かった。 以上より、秋に銀化して回遊開始するウナギは、少なくとも初夏の時点で春機発動が生じていると考えられた。この結果は、銀化などの回遊関連の形態的・生理的変化は水温が低下する秋に生じるという従来の常識を覆すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
使用した大型野外実験池は、河川水を掛け流した素掘りの人工池であり、天候の影響や病気の蔓延などのトラブルが生じる可能性があった。しかし、心配は杞憂に終わり、大きなトラブルが無く初年度から非常に明確な結果を得ることができた。計画通りに概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に行った大型野外実験池での再捕実験では、期待以上に明確な結果を得ることができたが、標本数が少ないことが問題である。そこで、次年度も同様の再捕実験を行い、再現性の確認を行う。並行して、生殖関連遺伝子のmRNA発現の測定系を構築しつつ、水槽飼育実験の準備を進める。
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Causes of Carryover |
宮崎県の大型野外実験池使用しているが、現地の協力者の貢献により、当初予定した池の維持管理等のための出張回数を少なくすることができた。また、当初の予定より標本数が少なくなり、試薬の必要量が少なくなった。そのため、次年度使用額が生じた。 当該助成金と翌年度分として請求した助成金を合わせて分子生理学実験の試薬を購入し、当初の計画より多い標本数で実験を行う計画である。
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Research Products
(4 results)