2020 Fiscal Year Research-status Report
降海か、残留か:ニホンウナギの春機発動が回遊開始メカニズムに果たす役割
Project/Area Number |
19K15900
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩原 聖士 東京大学, 大気海洋研究所, 特任講師 (80704501)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ウナギ / 銀化 / 産卵回遊 / 降海回遊 / 性成熟 / 春機発動 / 意思決定機構 / 個体差 |
Outline of Annual Research Achievements |
川や湖で一定の体サイズ以上に成長したウナギは、秋に銀化して産卵回遊を開始する。回遊を開始する体サイズと年齢は個体変異に富み、どんな生態学的条件を満たした個体が、どのような生理学的プロセスを経て、春機発動・銀化・回遊開始に至るかは明らかでない。 2019年度までに実施した大型野外実験池における標識再捕実験により、秋から初冬にかけて銀化する個体は、銀化しない個体に比べて夏季の時点で既に卵径が大きく、春機発動していることが示唆された。これは、「銀化・春機発動・回遊行動開始の3つは秋から初冬にかけてほぼ同期的に生じる」という従来の考えを覆すものであった。 上記の結果を踏まえ、2020年度は夏季に着目してより詳細な生理生態学的検討を行った。8月に宮崎県の都農町から延岡市にかけての小河川において、電気ショッカーを用いて雌のニホンウナギ40個体 (全長508-810 mm、体重156-837 g) を採集した。これら40個体は最大卵群卵径が大きいグループ (150.2-199.2 μm、7個体) と小さいグループ (69.7-130.0 μm、33個体) に明瞭に分かれたことから、前者を銀化予定個体、後者を残留予定個体とみなした。銀化予定個体は残留予定個体に比べて肥満度が高く、筋肉中の脂質含有量も有意に高い値を示した。卵巣の組織観察により、銀化予定個体は卵母細胞中に油球蓄積し、卵形成を進行させている様子が窺えた。また、銀化予定個体の血中11ケトテストステロン (11-KT量) は、残留予定個体に比べて有意に高い値だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行により研究活動が制限され、予定していた飼育実験と河川調査の一部が実施できなかったため、研究計画に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年8月に宮崎県の河川で採集した銀化予定個体と残留予定個体の耳石を用いて年齢査定と成長履歴解析を実施する。また、成長関連遺伝子・生殖関連遺伝子のmRNA発現解析も実施する。 銀化予定個体は残留予定個体に比べて肥満度が高く、筋肉中の脂質含有量も有意に高い値を示したことから、栄養状態が銀化に関与することが示唆された。そこで、飽食飼育実験を行い、栄養状態と銀化関連パラメータの関係についても検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により研究活動が制限され、予定していた飼育実験と河川調査の一部が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。 当該助成金と翌年度分として請求した助成金を合わせて分子生物学・生理学実験の試薬を購入し、当初の計画より多い標本数で実験を行う。また、昨年度実施できなかった飼育実験と河川調査を実施する計画である。
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