2020 Fiscal Year Research-status Report
落水と再潅水のタイミングおよび水ストレスレベルがイネ個葉の光合成能力に与える影響
Project/Area Number |
19K15944
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
辰己 賢一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40505781)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イネ / 収量 / 水ストレス / 窒素ストレス / 光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネの生産性と水管理には密接な関係があることが知られている.一方,大量の農業用 水利用等による水資源の枯渇リスクは解決すべき世界的問題になっている.しかしながら,生産性を決定づける重要なファクターの一つである“水”が個葉の光合成能力に与える影響に関する定量的な詳細研究は国内外においてほとんど行われていない.本研究課題では,落水と再潅水のタイミングおよび水ストレスレベルがイネ個葉の光合成能力(最大光合成速度,最大カルボキシル化速度,最大電子伝達速度)に与える影響の評価と,得られた結果に基づく効果的な水管理の在り方の提案を目的とした.水ストレスと施肥ストレスがイネの生長や光合成能力,収量にどのような影響を及ぼすのかを定量的に調べるため,水ストレスと施肥ストレス別の4つの処理区分でイネを東京農工大学内に設置されているファイトトロン内でそれぞれ栽培し,生育調査,ガス交換測定,収量調査を実施した.その結果,1) 元肥によって草丈やバイオマス成長速度および分げつ数が決定される.2) 水ストレスは光合成活動を抑制し,水ストレス期間中の穂の登熟は水ストレス期間前の貯蔵同化物質が使われる.3)生育期間によって水ストレスを受ける影響は異なり,出穂期前であれば水ストレスによって登熟機能が相対的に抑制されない,ことがわかった. 以上より,水ストレス下で栽培する場合,元肥を抑制して,分げつ数を減らし,出穂期前に断水処理を実施することで水利用効率,窒素利用効率を高めた資源節約型の水稲栽培が可能となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ファイトトロンでのイネの栽培試験は,2019年度と2020年度にそれぞれ実施する予定であったが,2019年度は学内の利用ルールが原因で施設を利用することができなかった.このため,2020年度のみの栽培試験実施となった.2020年度は予定を上回る内容でファイトトロンを利用した栽培試験を実施することができた.一方で,年次反復データを取得することができず,結果を十分にまとめるためのデータセットを当初の計画通りに得ることができなかった.以上より,総合的に見てやや遅れていると自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,(1) 2019年度に実施することができなかった,水・窒素ストレスがイネの光合成能力および収量に与える影響を栽培試験を通して行うと同時に,(2)2020年度に得られたデータをまとめることで研究を進める. 具体的には,2021年度に水ストレスおよび窒素ストレスの有無別のイネの生育調査,土壌水分および水ポテンシャルの測定,ガス交換測定による光合成能力測定,収量調査を実施する.これにより2020年度に実施できなかったデータ量の不足分を補う.(2)については,水ストレスや窒素ストレスが生育に与える影響,光合成能力の時間変化,収量調査に関する詳細なデータが得られていることから,これらのデータを使って,水ストレスおよび窒素ストレスレベルがイネ個葉の光合成能力に与える影響およびイネ個体のバイオマス生産に与える影響についての結果をまとめ,研究論文として投稿することを目指す.
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Causes of Carryover |
2019年度に予定していたイネ栽培試験が学内事情で行えなかったことにより,当初予定していた実験計画が遂行できなかったこと,およびコロナ禍により実験の一部が予定通り遂行できなかったため,次年度使用額が生じた.次年度使用額については,2021年度に行う栽培試験およびデータ解析に必要な予算として利用する予定である.
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