2019 Fiscal Year Research-status Report
熱帯の火山灰土壌における簡易リン肥沃度評価方法の構築とジャガイモ生産性の向上
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19K15948
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
木下 林太郎 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (70793678)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有効態リン酸 / バレイショ |
Outline of Annual Research Achievements |
ケニア共和国キアンブ県(n = 26)およびインドネシア共和国ガルット県(n = 7)のバレイショ生産者圃場において採取された土壌サンプルの理化学性分析を行い、圃場ごとの土壌リン肥沃度を評価した。その結果、圃場ごとに土壌のリン酸含量に大きなばらつきが存在していることが明らかとなった。両地域ではリン酸を多く含む化学肥料および家畜ふん尿の施用が積極的に行なわれてきた。この結果、約8割以上の地点で、日本の基準に照らし合わせても適正から過剰であった。また、数圃場ではリン酸含量が極めて低く、リン酸が作物の制限因子になっている圃場も存在していることが明らかとなった。 現地では土壌診断は都市部の研究機関でのみ行われており、生産者が利用できる土壌診断は限定的である。そこで、現場で実施可能な有効態リン酸含量の分析法の確立を目指した。既存の有効態リン酸の分析法は試薬による抽出の後、モリブデン青法による発色と、その溶液の吸光度を分光光度計で測定することで分析されている。この方法では、抽出液に多量の試薬を必要とし、濃硫酸を使用するため危険性が高い。また、抽出時間が長く、発色液は毎日作り変える必要があるだけでなく、分光光度計は高価であるなど現場で実施するには問題が多い。本研究から、抽出液を安全な酢酸に変更し、使用する抽出液の量を少なくし、抽出時間を5分に短縮し、発色液を長期保存可能なモリブデン黄法に変更しても、既存の方法と高い正の相関関係が存在することが明らかとなった(r = 0.90)。さらに、分光光度計ではなく、目視で評価可能にするためにカラーチャートを作成した。今後は、確立された有効態リン酸の簡易分析法を用いて異なる土壌タイプにおいても評価が可能か研究を継続する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ケニア共和国キアンブ県およびインドネシア共和国ガルット県のバレイショ生産圃場の土壌について、リン肥沃度の評価を実施した。さらに、既存の有効態リン酸の分析方法を簡易にし、現場で実施可能な方法の確立を目指した。とくに、危険な試薬の利用、煩雑な発色液の利用および分光光度計の利用を避けることを目的に、酢酸抽出により、モリブデン黄法でカラーチャートによる目視での有効態リン酸含量の評価方法を確立した。 また、隣国のマラウイ共和国の高地バレイショ生産地域でもプロジェクトを進行させた。同国もケニア共和国やインドネシア共和国と同様に、小規模でバレイショ生産が行われており、その生産性は低い。同国のバレイショ生産地域で土壌断面調査を実施し、土壌の鉱物組成および理化学性を明らかにし、バレイショ生産地域の土壌特性は地形などにより大きく異なることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
土壌のリン肥沃度を評価するためには有効態リン酸だけでなく、その土壌のリン酸固定力の評価が重要である。リン酸固定力の強い土壌は、施肥されたリン酸の多くが土壌に固定され作物へのリン酸供給力が低い。現状では、リン酸吸収係数の評価によりこの土壌のリン酸固定力が評価されている。しかし、有効態リン酸と同様に、リン酸吸収係数の評価には危険な試薬の使用が必要であることや、分光光度計の利用など現地での評価は難しい。本研究者は、北海道の普通畑土壌において、土壌の保水力を評価することでリン酸吸収係数の推定が可能なことを示してきた。今後は、本研究で採取されたアフリカおよび東南アジア地域の土壌について、土壌の保水力の測定によりリン酸吸収係数の推定が可能か評価を行っていく予定である。また、ケニア共和国キアンブ県では圃場により土壌の有効態リン酸含量が大きく異なることが明らかとなった。今後は、生産者圃場において、現地の情勢を鑑みて、リン酸肥料の肥効試験を実施していく予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は年度末にケニア共和国への渡航の予定があったものの、COVID-19の発生により渡航が延期された。本年度は、現地の情勢を鑑みて、複数回の渡航を計画する。
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