2019 Fiscal Year Research-status Report
環境破壊ガスN2Oの発生抑止に向けたカビ脱窒阻害剤の開発
Project/Area Number |
19K15954
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松岡 真生 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (80708545)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カビ脱窒阻害剤 / N2O |
Outline of Annual Research Achievements |
脱窒の中間産物である亜酸化窒素(N2O)は強力な温室効果ガスかつオゾン層破壊ガスとして知られており、近年N2Oの大気中濃度の増加が深刻な環境問題となっている。N2Oの最大人為的発生源は農業であり、農耕地からのN2O産生の主たる原因は土壌微生物による脱窒とされ、特にカビの脱窒による影響は極めて大きい。本研究では、カビ脱窒を阻害する化合物を見出し、農耕地から放出される環境破壊ガスN2Oの発生抑止に向けたカビ脱窒阻害剤を開発することを目的とした。 まずカビ脱窒阻害剤の開発に向けて、マイクロプレートを用いてカビ脱窒関連酵素である亜硝酸還元酵素のカビNirKの酵素活性の阻害度を評価するアッセイ系とカビ脱窒活性の阻害度を評価する細胞ベースのアッセイ系を構築し、理研化合物バンクNPDepoの天然化合物ライブラリーからこれらのアッセイ系を用いてハイスループット・スクリーニングによりカビ脱窒を阻害する化合物の網羅的探索を行なった。その結果、カビ脱窒を阻害する化合物5種の獲得に成功し、これは農耕地における化合物添加によるN2O発生抑止への大きな期待を抱かせるものであった。 また、以前にインシリコスクリーニングを用いてカビNirKを標的とする2種のカビ脱窒阻害化合物を発見しているが、これら2種の化合物に関してNirKを有する細菌の脱窒に対する阻害評価を行なった結果、これらの化合物は細菌脱窒活性を全く抑制しない、すなわちカビの脱窒にのみ特異的に阻害する化合物であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の大きな目標として掲げていたカビ脱窒を阻害する化合物の網羅的探索のために用いるスクリーニング系の構築およびハイスループット・スクリーニングの実行を完了し、カビ脱窒阻害剤の候補化合物の獲得が達成された。また、カビ脱窒にのみ特異的に阻害する化合物の発見も、農耕地での全N2O産生におけるカビ由来N2O発生の寄与度を評価する化合物プローブとしての利用を将来的に考えて初年度のもう1つの目標として掲げており、これも達成できた。 本研究課題は予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
農耕地土壌や肥料を用いた研究室レベルのポット試験を実施し、スクリーニングにより得られたカビ脱窒阻害化合物によるN2O削減効果を評価する。それと並行して、スクリーニングにより得られたヒット化合物の阻害作用機構を解明し、より有効なカビ脱窒阻害剤の設計へと結び付ける。また、カビNirK以外のもうひとつのカビ脱窒関連酵素である一酸化窒素還元酵素P450norの活性を阻害する化合物の網羅的探索を行なう。
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Causes of Carryover |
初年度にP450norの酵素活性を阻害する化合物の網羅的スクリーニングを予定していたが行わなかったため、網羅的スクリーニングに必要であった試薬や消耗品の購入費用の分だけ次年度使用額が生じた。 次年度使用額分はこのP450nor阻害剤スクリーニングの実験のための物品費に用い、翌年度分として請求していた助成金は、当初の予定通りにスクリーニングに用いる低分子化合物ライブラリーの費用、ヒット化合物の誘導体や類縁体の阻害評価とポット試験に利用するためのヒット化合物やその類似化合物の購入費用、ヒット化合物の阻害機構解明のための実験に必要な試薬や消耗品の購入費用に充てる。
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