2019 Fiscal Year Research-status Report
急性腎障害から慢性腎臓病への進展における再生尿細管の線維化促進メカニズムの解明
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19K16009
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
松下 幸平 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 主任研究官 (60777796)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 急性腎障害(AKI) / 慢性腎臓病(CKD) / AKI to CKD / 再生尿細管 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性腎臓病(CKD)は国民の10%が罹患する国民病であり、罹患者のQOLの著しい低下や医療費の圧迫は深刻な社会問題である。CKDの原因は様々であるが、近年では一過性の病態であると考えられてきた急性腎障害(AKI)からCKDに進展するAKI to CKDという概念が注目されている。AKIの主要な標的細胞である尿細管は内在性に再生能力を有するが、この再生機構が何らかの原因で破綻した場合、尿細管は線維化促進能を獲得し、CKD病態形成に寄与するとされている。本研究では再生機構の破綻した尿細管の線維化促進作用に関わる因子を同定し、CKD病態形成メカニズムの一端を明らかにすることを目的とする。 本年度は再生機構の破綻した尿細管の遺伝子発現プロファイルを明らかにするため、以下の実験を実施した。6週齢の雄性SDラットに60分間の片側腎虚血再灌流処置を施し、28日後の腎臓を採材した。病理組織学的解析を行い、腎組織内に線維化病変が形成されていること、さらに線維化病変内の尿細管は拡張あるいは萎縮していることを確認した。線維化病変内の拡張あるいは萎縮尿細管をレーザーマイクロダイセクションにより回収し、マイクロアレイを実施した。その結果、線維化病変内の尿細管は正常尿細管と比較して836遺伝子の発現が上昇しており、その中にはcollagen1a1やfibronectin1といった細胞外基質の産生に関わる因子が含まれていた。パスウェイ解析によりこれらの上流因子としてCD44が抽出され、免疫染色では線維化病変内の尿細管の細胞膜に明らかな発現が認められた。以上より、CD44は再生機構の破綻した尿細管の線維化促進能に寄与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は再生機構の破綻した尿細管の遺伝子発現プロファイルを明らかにし、線維化促進能に寄与する候補因子を抽出することを目標としていた。その目標は達成できたことから、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
AKIからCKDへの進展過程における尿細管の形態変化およびCD44の発現動態を経時的に解析するため、雄性SDラットに60分の片側腎虚血再灌流処置を施して経時的に剖検する。さらにAKIが生じた後の組織修復過程における再生尿細管の形態変化を経時的に観察するため、ラットに30分の片側腎虚血再灌流処置を施して同様に剖検を行う。各時点において病理標本を作製し、線維化病態形成と尿細管の経時変化を詳細に観察する。また、細胞老化マーカーであるsenescence associated β-galactosidase組織化学染色あるいはp21等の免疫染色を行い、再生機構の破綻した尿細管の組織学的特徴を明らかにする。さらにCD44の免疫染色を実施し、再生尿細管および再生機構の破綻した尿細管における発現動態を解析する。またマイクロアレイのデータより、線維化に寄与すると考えられる他の因子を検索し、同様にその発現動態を解析する。以上より、再生機構の破綻した尿細管において線維化に先立って発現する因子を検索し、線維化病態形成に早期から関わると考えられる因子を探索する。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由:新型コロナウイルス感染症の影響により海外からの受け取りが遅れた消耗品があった。また、当初購入を予定していた免疫染色に使用する抗体の購入の費用が少なく済んだ。 使用計画:次年度にはCD44を含む種々の因子に対して免疫染色を実施する予定であり、それに必要な抗体を購入するために使用する予定である。
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