2019 Fiscal Year Research-status Report
生きたまま胚を解析する新技術zFRAPによるROSI胚の低産仔率の原因究明と改善
Project/Area Number |
19K16012
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大我 政敏 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (40644886)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 個体形成能 / 円形精子細胞注入 / クロマチン構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、円形精子細胞注入胚(ROSI胚)におけるクロマチン構造の"緩さ"の異常の原因を明らかにし、ROSI胚の低い産仔率の改善を目指すとともに、クロマチン構造の異常をゲノムレベルで明らかにすることである。 まずクロマチン構造の異常について、未成熟な円形精子細胞を用いることから、ROSI胚では雄性前核に異常が現れているものと考えていた。ところが詳細に解析を行ったところ、実際には卵子由来のゲノムにあたる雌性前核でクロマチン構造の緩さについて異常が生じていることが明らかとなった。更なる解析から、成熟精子が受精した場合、精子が持ち込む何らかの因子によってクロマチン構造が締まったものになることが示唆された。そしてROSI胚では円形精子細胞がこの因子を持ち込まないため雌性前核のクロマチン構造の緩さに異常が生じていると考えられた。ROSI胚ではこれまでいくつかの先行研究で雄性前核でのエピジェネティックな異常が報告されてきたが、本研究により初めて雌性前核での異常を見出した。また、精子が雌性前核のクロマチン構造に影響を与えているという画期的な発見がなされた。 ゲノムレベルでのクロマチン構造の異常の理解については、今年度先進ゲノム支援の支援対象に採択され、その支援を受けつつRNA-seqおよびATAC-seqの実験系の構築に注力した。マウスの1, 2細胞期のROSI胚は大量にサンプルを用意することが非常に困難であり、これらの解析は困難を極めたが、それぞれ数十および数百個利用することで、いずれの解析も全てではないがデータを得ることができた。いくつかサンプル数が足りないものもあったが、2020年度も幸運にも採択していただけたため、引き続きデータ取得の準備を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ROSI胚で見られたクロマチン構造の異常の形成メカニズムの解析を行なった。当初は卵子由来前核との比較から、円形精子細胞由来前核でのクロマチン構造の緩さが不足していると考えていた。ところが、実際は精子が受精卵のクロマチン構造を締める働きがあり、この能力を欠くためROSI胚では雌性前核に緩んだクロマチン構造を生じていることが明らかとなった。さらに、精子によるクロマチンを締める働きが起こらない状況下であるROSI胚では、一見クロマチンの緩さに異常の見られなかった円形精子細胞由来前核が、本来の受精卵環境下では異常をきたすことが予想された。 本研究の目標を達成するには、ROSI胚でRNA-seq, ATAC-seqを成功させなければならない。しかし、ROSI胚はサンプルの調製可能な個数がNGS解析のための大きなハードルとなる。しかも、マウスの1細胞期胚についてはATAC-seqは成功しないという報告もあった。そこで、改良版であるomni-ATAC-seqを用い、まず成功例のある2細胞期の胚で実験系の確立を試みた。調製が容易な体外受精胚を用いた検証の結果、200個(400 cells)の2細胞期胚があれば、シーケンシングにかける価値のあるライブラリを構築できることがわかった。そこで、およそ200個の2細胞期ROSI胚を作成し、omni-ATAC-seqを行なったところ、解析可能なデータを得ることができた。この成功をもって本年度に1細胞期のROSI胚のATAC-seq解析の実施をゲノム支援に採択され、支援続行をして頂けることになった。RNA-seqは、1、2細胞期のtranscriptomeデータを得ることに成功した。数百個の発現異常を示す遺伝子のリストを得ることができた。現在、非遺伝子領域の発現産物についても解析に着手しようとしている。
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Strategy for Future Research Activity |
zFRAPで検出されたクロマチン構造の緩さの異常を突き止めるために、昨年度確立した実験系で1細胞期ROSI胚のサンプル調製およびシーケンシングを行う。ただし、数百の胚を一回でzFRAP解析し、ATAC-seqにかけることは現在技術面および経済的な面から不可能であると結論に至った。しかし、RNA-seqであれば胚をpoolすることも可能であり、必要個数も50個と現実的である。そこで、ATAC-seqのバルクのデータから見出される1細胞期ROSI胚のクロマチン構造の異常をと相関のある転写産物マーカーを見つけ出し、これを元にzFRAPで選り分けた優良ROSI胚と劣悪ROSI胚についてこのマーカーを指標として解析を行う。この解析により、ROSI胚の1細胞期におけるクロマチン構造の異常の内、低産仔率の原因を見出せると考えている。 一方、1細胞期でのATAC-seqに失敗した場合は、既に得られている2細胞期でのデータの解析を行い、ROSI胚の遺伝子発現における産物と制御機構の異常を明らかにし、論文化を目指す。なお、現在までのところROSI胚で発現異常を示す遺伝子を数百個同定することに成功している。今後はこれらの遺伝子の円形精子細胞および精子における発現を解析し、ROSI胚に生じる遺伝子制御機構の異常の発生メカニズムの解析とその解決策の模索を行う。 精子が持つ受精卵のクロマチン構造を締める働きを発見することができたので、この責任因子について探索を行う。これまでのところ、1細胞期胚の転写を阻害してzFRAP解析を行ってもクロマチンの緩さに変化が見られていないので、zygoticに生じる雄性ゲノムからの転写産物およびタンパク質ではないことが明らかとなっている。また、不活性化精子の顕微注入胚(ICSI)胚でも劇的な変化がないこともわかっている。
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