2019 Fiscal Year Research-status Report
加齢による小胞体ストレス遷延化を介した神経幹細胞老化メカニズムの解明
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19K16016
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
村尾 直哉 宮崎大学, 医学部, 助教 (20773534)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 神経幹細胞 / 小胞体 |
Outline of Annual Research Achievements |
海馬における恒常的な神経幹細胞からのニューロン産生は、記憶・学習などの高次脳機能維持に重要である。しかしながら、その数は加齢に伴って減少し、それが老齢期における記憶学習能力低下の一因とされている。加齢に伴う生理的・病的な変化として、タンパク質の分解系の活性低下により誘導される小胞体ストレス、およびその遷延化を介したタンパク質代謝の恒常性維持機構の破綻が知られている。これまでに、タンパク質分解系の活性に重要な小胞体膜分子Derlin-1の中枢神経特異的な欠損マウスが、成体神経幹細胞の枯渇や脳内炎症など、老齢マウスと類似した表現型を示すことが明らかにしてきた。本研究では、このDerlin-1の欠損マウスを脳内老化モデルと仮定し、神経幹細胞の挙動やニッチの変化を解析し、加齢によるニューロン産生や記憶学習能力の低下を引き起こす新規機構の提示を目指している。今年度は、ラット海馬由来の成体神経幹細胞を用いて神経幹細胞の挙動におけるDerlin-1の重要性を調べた。その結果、Derlin-1のノックダウンでは神経幹細胞が活性化状態から静止状態に戻りにくいことが明らかになった。さらに、同様の現象がin vivoでも起きていることを示唆する結果も得られた。このことから、ニッチの影響を完全には否定できないものの、神経幹細胞の枯渇は、神経幹細胞自身でのDerlin-1の欠損に起因すると考えられた。さらに、成体神経幹細胞においてDerlin-1のノックダウンで変動する遺伝子をRNA-seqにより解析した結果、予想に反して小胞体ストレスの誘導はほとんどみられないことも明らかになった。加えて今年度は、成体ニューロン新生に強く依存する行動解析であるobject location testを行い、Derlin-1欠損マウスではその認識が悪くニューロン新生の低下に依存した障害が起きていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度に計画していた実験計画について、変更はありつつも同等以上の進行状況であるため。平成31年度は、「【Aim 1】Derlin-1欠損マウスの成体ニューロン新生への影響を詳細に解析する。および、【Aim 2】脳内での小胞体ストレスの蓄積が成体ニューロン新生や記憶学習能に影響を与え得る分子を網羅的に解析し、標的因子を同定する。」 に関しての実験を行った。その結果、Derlin-1欠損マウスにおいて成体ニューロン新生に重要な、静止期の神経幹細胞が増殖状態に入る段階、もしくは増殖状態から静止状態に戻る際に異常が起きていることが示唆された。この際、活性化した神経幹細胞が持続的に増えていたため、これが老化を模倣した神経幹細胞の枯渇状態を引き起こす原因のひとつであると考えられた。また、Derlin-1欠損マウスの海馬における成体神経幹細胞と同様の表現型がin vitroの系を用いた実験でも再現できた。そのため、この細胞を用いてRNA-seqによる網羅的な解析も行い、候補因子の絞り込みを行っている。以上より、本研究の目的の達成度としては、おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、予定していた計画に沿って研究を遂行したが、昨年度の結果より、今年度は少し計画を変更して研究を遂行する予定である。まず、成体神経幹細胞のRNA-seqによる網羅的な解析より、当初予想していた小胞体ストレス関連の因子に関してあまり変動がみられなかったことから、神経幹細胞の増殖制御において、Derlin-1は小胞体全体の品質管理機構というよりは、ある特定の基質の分解等に重要である可能性が考えられる。この因子について、現在解析済みのRNA-seqの結果から候補分子を同定し、in vitroの実験によりその必要性を解析する。また、その因子が老化によって変化しているかに関しても同時に解析し、老化との関連についても調べる。その後は当初の計画のように、選出した候補因子の機能を阻害する薬剤や抗体をDerlin-1欠損マウスおよび老齢マウスの脳内に投与し、生体内において神経幹細胞老化による成体ニューロン新生や記憶学習能力低下の表現型の回復がみられるかを、免疫染色法や行動解析などにより解析する。これらの解析により、中枢神経系での小胞体を介したタンパク質分解等の変化により引き起こされる神経幹細胞老化や記憶学習能の低下の原因となる標的分子を同定する。さらに、浸透圧により決められた量を持続的に注入できる小型の浸透圧ポンプなどを用いて、その因子を若齢マウス脳内に継続的に投与し表現型を確認する。これらの実験により、神経幹細胞老化による成体ニューロン新生の低下や記憶学習能の低下に重要な因子を同定する予定である。
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