2019 Fiscal Year Research-status Report
マウスをモデルとした遺伝的ストレス脆弱性に関する橋渡し研究
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19K16029
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
今井 早希 東海大学, 農学部, 助教 (50722279)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幼少期環境ストレス / 愛着形成 / モデルマウス / 行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、遺伝的ストレス脆弱性を有する遺伝子突然変異マウスをモデル動物として活用し、特定の養育者との安定した関係構築の重要性を行動学的、神経科学的、組織学的観点から明らかにすることを目的とする。 古くから臨床医学や発達心理学の分野において、養育者と子の安定した関係の重要性が研究されてきた。近年、生物学的分野においても、長期母子分離や早期離乳が成熟後の個体へ及ぼす影響に関する研究が盛んに行われており、哺乳類における親子関係の生物学的意義が証明されつつある。このように、幼少期の養育は子の身体的および精神的発達の基盤を構成する大きな要因となる。しかし、「特定の」養育者の重要性に焦点を当てた研究はほとんどない。 そこで、本計画では、産みの親以外のメスマウス間を毎日移動させられた子の発達、行動、神経、組織へ及ぼす影響を明らかにし、臨床医学臨床医学へ橋渡しする基礎的知見の確立を目指す。初年度は、C57BL/6J マウスを用いて実験を行う。仔マウスを毎日決まった時間に産みの親マウス以外のメスマウス間を移動させ、養育を受けるが「特定の」養育者がいない環境下で飼育する。離乳後、雌雄を分けて飼育し、 12 週齢までの間に各種行動試験を行う。具体的には、不安 (高架式十字迷路試験)、社会性行動試験 (3 チャンバー社会性行動試験)、うつ様行動試験 (尾懸垂または強制水泳試験) を実施し、購入予定であるSMARTビデオ画像行動解析装置を用いて解析を行う。次年度は、遺伝子突然変異マウスを用いた実験に着手する。行動試験で異常が認められた行動、および、母子分離や早期離乳などを実施した先行研究の結果をもとに組織サンプルを用いて物質的な変化を検討してゆく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、C57BL/6Jマウスを用いて特定の養育者との安定した関係構築の重要性を行動学的観点から明らかにすることを目的に実験を行った。 仔マウスを毎日決まった時間に産みの親マウス以外のメスマウス複数間を移動させ、「特定の」養育者がいない環境下で離乳まで飼育した。①生みの親マウスから養育を受け続けるControl群、 ②生みの親マウス以外の同系統・複数のメスマウス間を毎日移動する移動群 (Repeated Cross Foster ; RCF群) を作り、体重や離乳後の行動を比較検討した。 体重はControl群と比べ、RCF群においてPD6から有意に低下しはじめ、離乳まで体重低下が続いた。離乳後、特にメスにおいて有意な体重低下の継続が認められた。行動への影響は基本的活動量、不安様行動、うつ様行動、社会性行動に関する行動試験にて解析した。その結果、基本的活動量、不安様行動、うつ様行動においてはControl群とRCF群間に有意差は認められなかった。しかし、3チャンバー試験における社会性行動においてRCFの影響が認められた。試験は離乳後約1週間および生後8週齢のマウスを用いて行った。その結果、離乳後1週間のRCF群オスマウスは見知らぬマウスが入ったカップのある部屋へ入るまでの時間が有意に長く、また、その部屋での滞在時間も有意に短いことが明らかとなった。しかし、生後8週齢で同様の行動試験を実施したところ見知らぬマウスが入ったカップへ接触する時間が有意に増加していた。 以上の結果から、生後から離乳までの期間「特定の」養育者がいない環境は特にメスにおける身体的発達へ影響を及ぼすことが示唆された。また、オスにおける社会性行動において発達段階ごとに異なる影響を及ぼしたことから、「特定の」養育者がいない環境は身体のみならず神経発達的へも影響を及ぼす可能性がある考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はC57BL/6Jを用いて実験を行い発達および行動の側面での変化を明らかにした。しかし、生みの親に育てられた仔と毎日異なる生みの親以外のメスマウスに育てたれた「特定の」養育者を持たない仔が、離乳までに受けた授乳を含めた養育行動の時間および質が同一であるかを確認する必要がある。現在、実験中に撮影した動画解析を進行している。また、虐待や育児放棄には世代間連鎖が認められるとの報告がある事から、Control群とRCF群のメスを交配出産させ、次世代のメスマウスにおける養育行動を調べてゆく予定である。 先行研究により母子分離をはじめとする幼少期ストレスは成長後のストレス感受性を高める要因となりうることが知られている。本研究においてもマウスの発達および特定の行動へ影響を及ぼした事から、「特定の」養育者のいない環境はマウスにとって幼少期ストレスとなりうる可能性が示唆された。そこで、Control群とRCF群の血中コルチコステロンなどの物質の変化を調査する。また、本研究で実施した幼少期環境で飼育したマウスに対し、離乳後、異なるストレスを与えた場合の行動への影響を調べてゆく。 現在、次年度計画へむけて、遺伝的ストレス脆弱性を有する遺伝子突然変異マウスを用いて同様の実験に着手している。しかし、本研究で使用する遺伝子突然変異マウスの性質として、養育行動を示しにくい事、育児放棄や食殺が認められる事を報告しており、本課題における交配出産においても、妊娠率が低く、出産後も食殺を繰り返す傾向が強い。従って、実験遂行にあたり大きな課題となっている。そこで、今後は突然変異型遺伝子をホモで持つマウスを交配に用いる代わりに、ホモのオスマウスとC57BL/6Jのメスマウスを交配させヘテロマウスの仔を用いた実験を対応策として検討している。
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Causes of Carryover |
当初計画していたよりも物品費を安く抑えることができたため未使用額が発生した。引き続き次年度以降も物品購入に使用する計画である。
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