2023 Fiscal Year Annual Research Report
栄養環境刺激がメダカの精子および次世代初期胚へもたらすエピゲノム変化の解析
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19K16036
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 雄介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (50814448)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高脂肪食 / メダカ / 生殖細胞 / 次世代 / 卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではメダカを用い、親に対する高脂肪食(High-fat diet: HFD)投与が生殖細胞および次世代個体に与える影響を明らかにすることを目指した。本年度は、母体の肝臓・脳下垂体の遺伝子発現解析および卵巣の組織学的解析に関して追加実験を行い、前年度までの結果をまとめて論文執筆を行った。 研究期間全体の成果は以下の通り。当初は父親に対するHFD投与が次世代個体に与える影響を解析していた。しかし、次世代胚の正常異常率は通常食(Normal chow: NC)群と有意差が見られず、また成体の表現型にも顕著な変化が見出されなかった。さらに、胞胚期胚のRNA-seqおよびATAC-seqを行ったが、父親個体の食餌条件による遺伝子発現・クロマチンアクセシビリティーの変化はほとんど検出されなかった。したがって、メダカにおいて、父親に対する高脂肪食投与は次世代個体にほとんど影響を与えないことが示唆された。 そこで母親HFDが次世代に与える影響に研究対象を切り替えた。その結果、HFD群ではNC群と比較して受精率および次世代胚の正常発生率が有意に低下していた。成熟卵のRNA-seqの結果、母親HFD群の卵では小胞体ストレスに関連する遺伝子群の発現が上昇している一方、卵成熟に関わる一部の遺伝子の発現が低下していた。また、メタボローム解析の結果、HFD群の卵では尿素サイクルに関連する代謝物が低下している一方、中性脂肪量は上昇していた。さらに、母体の表現型解析により、HFD群の卵巣では卵胞閉鎖の頻度が上昇しており、また肝臓では卵黄タンパク質遺伝子の発現が低下していることがわかった。以上より、HFD群の卵では、母体から供給される卵黄タンパク質の量およびそのプロセシングの低下や、脂質の量の増加に伴う脂肪毒性が生じていることが示唆され、これらが次世代胚の発生異常を引き起こしている可能性を提示した。
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