2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞由来の成熟化心室筋・心房筋細胞の作製とそのメカニズム解析
Project/Area Number |
19K16041
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小圷 美聡 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (90565813)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒトiPS細胞由来心筋細胞 / 成熟化 / 心室筋細胞 / 心房筋細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトiPS細胞由来心筋細胞の成熟化、及びそのメカニズムを明らかにするために、昨年度までに成熟化の指標として新たに見出した遺伝子Aに蛍光レポーターを組み込んだiPS細胞株を樹立し、樹立した細胞株由来心筋細胞を用いて成熟化を促進する化合物のスクリーニングを実施した。 今年度は、見出した成熟化化合物XがiPS細胞由来の心室筋細胞のみならず、心房筋細胞の成熟化も促進すること、また、その成熟化メカニズムが新規のものである可能性を示唆するデータを得た。iPS細胞から心筋分化開始後10日目から16日目に化合物Xを添加して培養し、20日目にflowcytemetorにてTNNI1陽性細胞をソートして心筋細胞を得た。得られた心筋細胞の成熟化度を測るため、成熟化に伴い発現の変化することが知られる遺伝子群の発現について化合物無添加群と比較したところ、化合物Xは遺伝子Aをはじめ、サルコメア遺伝子や、カルシウムハンドリング関連遺伝子、またイオンチャネルの遺伝子発現を亢進させていた。さらに、iPS細胞から分化した心房筋細胞についても、心房筋特異的に働くアセチルコリン感受性K+チャネル(IKACh)や、遅延整流K+チャネル(IKur)をコードする遺伝子の発現が化合物Xによって促進され、成熟度が上がっていることが示唆された。化合物Xはある受容体に結合することが分かっている。この受容体ファミリーに対するagonist, antagonistを添加した実験から、心筋細胞の成熟化を促進するメカニズムとして、ある受容体を介したシグナル伝達経路の関与を示すデータを得た。今後、化合物Xによる心筋細胞の成熟化について、遺伝子発現以外の成熟化の評価を進めるとともに、仮説のシグナル伝達経路が具体的にどのように関与しているかを明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
化合物XがiPS細胞由来心室筋細胞、心房筋細胞に対して成熟化マーカーとして知られる遺伝子の発現を促進することを明らかにするとともに、その作用メカニズムについてターゲットとなる受容体ファミリーを絞り込むことができた。昨年度はCOVID-19の感染拡大による情勢から実験を縮小せざるを得ない期間があったため成熟化の評価が遅れているが、メカニズム同定の足掛かりとなるデータを得るところまで終了したため、計画全体としての遅延程度は低いと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、ヒトiPS細胞由来心室筋細胞、心房筋細胞を用いて仮説として挙げている化合物Xの成熟化メカニズムについて具体的な関与を明らかにしていく。まず化合物の添加有無でtranscriptome解析を行い、仮説のシグナル経路が動いているか、また、作用機序に心筋サブタイプの違いが反映されているかを明らかにする。さらに、化合物Xのターゲット受容体をコードする遺伝子に対するsiRNAを用いてknock downした場合に化合物の作用が消失するかを検討する。タンパクレベルで発現が落ちていないなど、Knock down実験では不十分な結果であると判断した場合にはゲノム編集によってKnock out iPS細胞株を作製し、心筋細胞へ分化させて実験に用いる。また、成熟化の評価として、サルコメアの構造、代謝プロファイル、活動電位、カルシウムトランジェントなどから成熟化を総合的に評価する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大により所属施設において実験縮小が命じられ、当初予定していた実験計画の変更を余儀なくされたため次年度使用額が生じた。 助成金の使用計画としては、メカニズム同定のためのsiRNA実験に用いるsiRNA合成や、transfection試薬を購入予定である。また、ターゲット遺伝子のKnock out iPS細胞株の作製にあたっては、Knock out株作製から心筋細胞への分化までに時間のかかる作業となる。より短期間で成果を出すために、ゲノム編集については外部に発注することを計画しているため、その費用に充てたいと考えている。
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