2019 Fiscal Year Research-status Report
HP1による染色体パッセンジャー複合体の空間的活性制御機構の解明
Project/Area Number |
19K16047
|
Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
迫 洸佑 公益財団法人がん研究会, がん研究所 実験病理部, 研究員 (00838469)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 染色体分配 / Aurora B / INCENP / HP1 / 天然変性領域 / 構造解析 / キネトコア |
Outline of Annual Research Achievements |
分裂期キナーゼのAurora Bを含む染色体パッセンジャー複合体(CPC)は、正常な染色体分配に必須の分子である。染色体分配時において、CPCはその局在範囲外に位置する動原体(キネトコア)タンパク質のリン酸化によって動原体/微小管の結合異常の補正を行うが、その分子背景は未だ不明である。 我々は先行研究で、CPCの活性制御にHP1の結合が必要であることを見出していた。そこで、HP1が結合するCPCの足場タンパク質であるINCENPの「天然変性領域(IDR)」がその制御機構の鍵を握っていると考え、構造生物学的解析と細胞生物学的解析を駆使して「HP1によるCPCの空間的な活性制御機構の解明」を目指すことにした。具体的には、INCENPのIDRがHP1結合によって構造変化を起こし、CPCの活性範囲を規定するという作業仮説を立てた。 我々は前実験として、HP1/INCENP結合は、これまで報告されてきたHP1の典型的な結合様式(INCENP PVL-motifを介した結合)だけではなく、PVL-motifのC末端側に位置する10アミノ酸残基ほどの領域(2nd-site)も加わった新規結合様式を取ることを明らかにしていた。 本年度は、まずHP1/INCENP結合領域の周辺構造解析を引き続き行うと共に、それに関連する培養細胞実験に重点をおいて解析を試みた。その結果、INCENP 2nd-siteが細胞内でもCPC活性維持のために必要な領域であることが明らかとなった。加えて、HP1結合がINCENP全長構造に与える影響を検証するため、HS-AFMによる液中構造解析についても実施し、Aurora B-INCENPヘテロ二量体にHP1が結合した際に伸張反応が起こること、およびその伸長反応にINCENP IDRが関与していることを突き止めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、HP1/INCENPの新規結合様式について、順調に解析を進めることができた。特に、INCENPのPVL-motifのC末端側に位置する10アミノ酸残基ほどの領域(2nd-site)中で、結合に重要な1アミノ酸残基を同定、そのアミノ酸残基のシングルAla置換でHP1の結合が極端に低下することが判明した。また、HP1のセントロメア局在を検証した際、INCENP 2nd-site変異体はHP1の局在量が低下すること、Aurora Bの基質であるキネトコアタンパクのHec1、およびDsn1のリン酸化がそれぞれ低下することを見出した。これらのことから、INCENP 2nd-siteがprometaphaseのCPC活性維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。 加えて、HS-AFMによる液中構造解析において、Aurora B-INCENPヘテロ二量体に対しHP1が結合した際のHP1からAurora Bまでの直線距離を解析したところ、HP1が結合しない場合に比べて、HP1が結合したINCENPは平均伸長距離が10 nm弱も延びることが判明した。さらに、INCENP-IDR欠損変異体ではその伸長距離が大幅に減少することから、伸長距離の保持にはIDRが深く関与していることも明らかとなった。 これらは、3年の研究計画のうち、前半の1年半で得られると予想していた結果であり、当初の計画以上に進展していると言える。加えて、当初からの仮説であった「INCENPのIDRがHP1結合によって構造変化を起こし、CPCの活性範囲を規定する」を支持する結果が得られ、今後の研究計画のさらなる進展が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、HP1/INCENPの新規結合様式についてHP1側の相互作用部位の特定と共に、なぜ新規結合様式が必要なのか、その生理学的意義について引き続き培養細胞の実験系にて解析を進める。特に、M期セントロメアにはPVL-motifをもつタンパク質が他にも存在するため、それらとINCENPとの関係性について、より詳細に解析をしていく予定である。 加えて、HS-AFMで見られたINCENPの伸長反応が細胞内のCPCの活性制御機構にも必要な反応であるかどうかを検証するため、こちらも培養細胞の実験系を構築し、解析を進める予定である。
|