2021 Fiscal Year Research-status Report
HP1による染色体パッセンジャー複合体の空間的活性制御機構の解明
Project/Area Number |
19K16047
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
迫 洸佑 公益財団法人がん研究会, がん研究所 実験病理部, 研究員 (00838469)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 染色体分配 / Aurora B / INCENP / HP1 / 天然変性領域 / 構造解析 / キネトコア |
Outline of Annual Research Achievements |
分裂期キナーゼのAurora Bを含む染色体パッセンジャー複合体(CPC)は、染色体分配時においてセントロメアに局在し、その『局在範囲外』の動原体タンパク群のリン酸化を行うことで、動原体/微小管の結合異常の補正機能を担っているが、なぜ局在範囲外まで活性が届くのか、その分子背景は未だに不明である。 我々は先行研究で、CPCの活性制御におけるHP1結合の必要性を見出していた。HP1はCPCの足場タンパク質であるINCENPの天然変性領域(IDR)中のPxVxL/I-motif (以下PVI)に結合するため、我々は「HP1結合時にIDR全長が状態変化し、CPCの活性到達範囲を広げる」という作業仮説を立てた。加えて、本研究課題の前実験(NMR解析)から、HP1/INCENP結合は、これまで報告されてきたHP1の典型的な結合様式(PVIのみを介した結合)ではなく、PVIの下流領域(2nd-site)も使用する結合様式であることを明らかにしていた。 昨年度は、HP1結合時にPVIと2nd-siteがそれぞれ構造変化することをNMR解析でさらに明らかにした。また、INCNEPと同じく分裂期のセントロメアに局在するSgo1(PVIのみ保有)に対し、INCENPのPVI+2nd-siteを導入しところ、HP1がセントロメアに過剰局在することが判明した。 本年度はさらに、ITC解析によってこの二連結合様式が典型的なPVI-motifに比べて20倍の結合力を持つことを明らかにした。また、INCENPにSgo1-PVI-motifを導入すると、HP1との結合力が低下し、CPCの細胞内機能が阻害されることが分かった。 以上の解析から、INCENPのHP1結合部位2nd-siteは、セントロメアにおいてINCENPがHP1と強力に結合しCPCの機能を発揮するために重要な役割を担うことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
過去の報告から、HP1は分裂期においてINCENPと同様にセントロメア局在をしているSgo1(PVIのみ保有)とはほとんど相互作用しない可能性が示唆されていた。昨年度の解析から、Sgo1のPVIをINCENPのPVI+2nd-site (33アミノ酸残基)に置換したキメラ変異体はHP1のセントロメア過剰局在を引き起こす一方で、INCENPのPVI+2nd-siteの代わりにSgo1のPVI周辺配列(上記に対応する33アミノ酸残基)を置換したキメラ変異体は、免疫沈降においてHP1の結合が低下した。よって、INCENP特有の二連結合様式は分裂期においてINCENPが他のHP1結合タンパクよりも強くHP1と結合するために必要である可能性が考えられた。 本年度は、この仮説を検証する実験を遂行した。具体的には、INCENPのPVI+2nd-siteおよびその範囲に対応するSgo1-PVI-motif周辺配列のそれぞれの組換えタンパク質断片を作製し、HP1の全長組換えタンパク質とのITC解析を行った。すると、INCENP断片はSgo1断片の1/20倍ものKdを示すことが判明し、2nd-siteの存在がHP1との結合をより強固にすることが分かった。そこで、INCENPのSgo1-PVIキメラ変異体の恒常発現細胞株を作製し、CPCの機能解析を行ったところ、動原体タンパクのリン酸化量の低下や染色体分配異常の頻度の増加が生じた。 以上の解析から、INCENPのHP1結合部位2nd-siteは、セントロメアにおいてINCENPがHP1と強力に結合しCPCの機能を正常に発揮するための重要な部位であることが判明した。 これらは本研究の最終的な結論を導くための重要な結果であり、HP1によるCPCの分子制御機構の一端を明らかにする内容となったことから、当初の想定以上に研究が進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を推進するにあたり、非常に重要な背景として、分裂期HP1のセントロメア局在の意義について議論が多岐に渡っている点が挙げられる。実際に、INCENP以外のPVI保有タンパク質に焦点を当てた知見は散見されるものの、CPCの分子機能の補完/制御の観点から研究報告をしているのは本研究遂行者の所属研究室のみである。このことから今後は、今回発見したHP1/INCENPの二連結合様式とその生理的意義を中心に、分裂期におけるHP1/INCENP相互作用の重要性を学会などで改めて問うことに重きを置いた研究活動を行う予定である。 なお、当研究の第三年度は、コロナ禍による研究実施時間の減少により、当初予定していた最終年度としての研究活動(論文の執筆/投稿)を延期し、より研究内容を昇華させるため研究実施時間の確保を優先にした。第四年度の延長申請が許可されたことで来年度が最終年度となるため、積極的な学会発表に加え、論文の執筆/投稿を最優先事項に据えた研究活動を推進したいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、本年度の物品納品時期に遅れが発生し、結果として次年度使用額が生じた。本年度に物品の納品がされ次第、繰越金 額を精算する予定である。
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