2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K16056
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
齊藤 恭紀 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (10808786)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 穀物 / 膜タンパク質 / 膜輸送体 / チャネル / アクアポリン / X線結晶構造解析 / ケイ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
ケイ素は土壌中に多く含まれる元素で、イネやトウモロコシ、コムギ、サトウキビ、オオムギ等、重要な穀物の生育や生産性を左右する。穀物はケイ素を土壌中から取り込むことで、生物的・非生物的ストレスに対して耐性を獲得しているので、ケイ素を取り込む仕組みの理解は穀物の頑健性や生産性の向上に大きく寄与すると期待されている。穀物におけるケイ素の取り込みは、根の外皮細胞の細胞膜上に発現しているケイ酸チャネルが土壌中のケイ酸を取り込むことから始まる。これまでに、研究代表者はケイ酸チャネルの構造を原子レベルで明らかにし、良く分かっていなかったケイ酸透過経路を明らかにしてきた。しかしながら、ケイ酸チャネルの基質選択性についてはまだ分からない点が多かった。 本研究では穀物の根におけるケイ酸取り込みの機能制御を目指し、ケイ酸チャネルの基質選択機構の原子基盤をX線結晶構造解析により明らかにすることを目的とした。 本年度では、結晶化した穀物由来のケイ酸チャネルをいくつかの透過基質を含んだ溶液にソーキングし、X線回折データセットを収集した。さらに、ケイ酸透過ができない機能欠損変異体の発現・精製・結晶化を成功させ、X線回折データセットを収集した。これらのデータを解析した。また、ケイ酸チャネルの高分解能構造を精査することで、チャネル内の特殊な水分子が基質の選択に重要な役割を果たしている可能性を見出した。さらに、基質透過経路を構成するアミノ酸残基に変異を導入したケイ酸チャネル変異体を多数作製し、その基質輸送能を解析した。その結果、基質選択性に寄与する部分が明らかとなった。 本年度は、当初の研究目的および研究実施計画を充たす結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、初年度に穀物のケイ酸チャネルの熱安定性の向上および結晶パッキングの改良を行ってケイ酸チャネルの構造の分解能を向上させること、ケイ酸チャネルの機能解析系の立ち上げを行うことを計画していた。 初年度では、結晶化コンストラクトの改良を行い、ケイ酸チャネルの熱安定性・結晶パッキングを改良し、分解能を大幅に向上させることに成功した。分解能の向上によって、基質透過経路内の特殊な水分子が基質の選択性に重要な役割を果たしていることが分かってきた。さらに、ケイ酸チャネルの機能欠損変異体の結晶化に成功し、そのX線回折データも収集した。ケイ酸チャネル結晶を様々な透過基質にソーキングし、X線回折データを収集した。しかし、2 mMまでしか水に溶解しないケイ酸の特性とケイ酸チャネルとケイ酸間の小さい親和性によって、ケイ酸自体をX線結晶学で可視化することが困難であることが分かってきたので、ケイ酸とケイ酸チャネルとの相互作用を明らかにするさらなる工夫が必要である。加えて、ケイ酸チャネル結晶は結晶格子に欠陥があり、構造解析を困難にしているので、この結晶格子の欠陥を改良する必要が出てきた。 これまでに、研究代表者が考案した迅速な機能評価系をさらに改良し、データのS/N比を向上させることができた。 以上の結果を鑑みて、現在の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、穀物のケイ酸チャネルの構造を原子分解能で解明することに成功しており、様々な透過基質を含む緩衝液中にソーキングしたケイ酸チャネル結晶からX線回折データを収集することに成功している。加えて、機能欠損型ケイ酸チャネルの発現・精製・結晶化にも成功している。しかしながら、結晶格子の欠陥によって回折データの解析が困難になっている。また、透過基質およびチャネルの性質上、透過基質を可視化することが困難になっている。今後は、結晶化条件および結晶化コンストラクトのさらなる至適化を行い、結晶格子の欠陥を改善することを目指す。そのような良質な結晶が得られた後は、様々な透過基質との複合体の構造を解明し、それぞれの構造を比較して、変異体の機能解析を行うことでケイ酸チャネルの基質選択機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
標的膜タンパク質の精製・結晶化が順調に進んだために、初年度にかかると想定していた界面活性剤・培地の消費が少なくなったために、次年度使用額が生じた。この余剰額は、想定外であった結晶格子の欠陥を改良するために必要な、精製・結晶化条件の検討にかかる試薬類の購入に充てる。
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