2020 Fiscal Year Research-status Report
膜タンパク質に対する新規薬剤化合物の統計熱力学に基づく高速スクリーニング法の開発
Project/Area Number |
19K16099
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
梶原 佑太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (40828159)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 創薬 / 生物物理学 / 計算科学 / 分子シミュレーション / 膜タンパク質 / 低分子化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規創薬開発の前臨床試験における化合物のスクリーニングによる標的候補化合物の同定と、その候補化合物を改変させる構造最適化の段階において、時間と労力がかかるため、新薬開発の負担となっている。実験的な試行錯誤について、計算機による効率的かつ負担軽減が求められている。 計算機によって候補化合物を起点とした新薬候補化合物への構造最適化には正確な評価方法が必要であり、かつ、最適化のための試行錯誤に用いられる化合物候補は膨大にのぼるため高速に評価をする必要がある。標的蛋白質と化合物の結合親和性を正確に評価する方法としては、物理的要素から成る結合自由エネルギーに基づく方法が代表的であるが、厳密で評価する方法であるために高速に計算するためには特別な計算機を構築・設置する必要があるため、根本的なコスト削減にはつながらないのが現状である。 申請者は近年、創薬の標的として重要な膜蛋白質の構造安定性を記述できる自由エネルギー関数を開発した。膜蛋白質の構造形成において、標的の膜蛋白質と周りの周辺環境を考えると、その構造形成に伴う水素結合を代表とする静電相互作用エネルギーの獲得と、脂質分子を構成する炭化水素基の熱運動に起因するエントロピー効果が重要であるため、それらの因子に基づいた自由エネルギー関数である。その関数を用いた評価方法に基づき、膜タンパク質の耐熱化を実現できるアミノ酸置換を予測する方法論を構築し、G蛋白質共役型受容体(GPCR)に対してその有効性を実証した。多くの不活性型GPCR Class Aに共通して安定化をもたらす鍵残基とホットスポットを発見した。 本研究では、この関数を応用して、蛋白質―化合物間の結合に伴う安定性の変化量を記述する方法論を構築する。構築した方法論を用いて、膨大な数にのぼる化合物を高速で評価し、標的蛋白質に対して有効な薬剤候補化合物を提案して実験で検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表的な構造を持つアデノシンA2a受容体と既知化合物(ZMA)の共結晶構造を参照にした。結合前におけるタンパク質化合物各々の非結合状態や、結合後におけるタンパク質化合物結合状態の各々の構造のゆらぎを考慮するため、共結晶構造からタンパク質と化合物を引き離した各構造を用いて分子動力学シミュレーションを行った。平衡状態に達したと考察される各々の構造アンサンブルを用いて、結合に伴う自由エネルギーの変化量を解析した。エネルギー項としては結合に伴う分子エネルギーや分子内相互作用エネルギー(静電相互作用およびファン・デル・ワールス相互作用)および結合に伴い損失を伴う分子―水分子間の相互作用エネルギーを解析した。エントロピー項としては結合に伴う構造エントロピー損失量の推定値と、溶媒のエントロピー変化量として、流体用の統計熱力学理論と物の形を定量的に扱う計測学的アプローチとの統合型理論を用いて厳密かつ高速に計算した。当該熱力学の変化において、結合周辺箇所は水環境であるため、水溶液に伴う自由エネルギー変化量につき解析した。 結果として、結合に伴う変化量が大きい物理量、すなわち、結合について重要と考えられる因子に水素結合を主とする静電相互作用の獲得が挙げられるが、結合前の状態におけるタンパク質化合物といった各溶質と水分子との水素結合が切断されるため、そのことによるエネルギー損失量を勘案すると、その変化量は大きくなく、結合に重要な因子といえなかった。同様にして重要なエネルギー項として、疎水性相互作用が挙げられるが、こちらも各溶質と水分子の疎水性相互作用の損失を伴って獲得されるものであり、重要な因子とは言えなかった。各物理因子を詳細にみると、結合に伴う水のエントロピー利得が極めて大きく、結合において特に重要な因子であることが分かった。さらに、既存の自由エネルギー予測値よりも信頼性が高かった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究対象は、膜タンパク質の代表的な構造を持つタンパク質と低分子化合物の結合について、熱力学的観点から結合親和性の理論的評価を行ったものである。そのため、多くの膜タンパク質について同一の見解が得られる可能性が高い。まずは、本研究で扱ったアデノシンA2a受容体に対して、薬剤候補化合物のスクリーニングを行い、その実用的検証を行う。新たな薬剤候補となる化合物の評価については、千葉大学にて実験的に検証を行う。 有益である化合物が見つかれば、その化合物をリードとして、構造の最適化を行い、さらに結合親和性の高い化合物の探索を行う。
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Causes of Carryover |
新型感染症の拡大により、用途計画が変更となった。
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