2019 Fiscal Year Research-status Report
ボトムアップジェネティクスによる大腸菌ゲノム相同組み換えのシステム解析
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19K16109
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
青木 航 京都大学, 農学研究科, 助教 (10722184)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 合成生物学 / 人工細胞 / ボトムアップジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
生物学的システムの再構成は、生命を理解する上で重要なマイルストーンである。なぜなら再構成によって、生物学的システムの理解に必須な①必要十分条件となる因子の決定、②ブラックボックスがない状態でのkinetics測定・モデル化・予測・検証が可能になるからである。しかし、再構成は極めて難しく、大腸菌レベルの生物学的システムでさえ達成例は少ない。再構成を目指す研究が難しい理由は、その手法が仮説ドリブンかつ逐次的なものにならざるを得ないからである。再構成研究では、既存の還元的研究で同定された因子をin vitroでひとつずつ組み合わせ、生物学的システムが機能するかどうかを検証する。しかし、目的の反応が再構成できなかった場合、その原因の特定は極めて難しい。 そこで本研究では、任意の生物学的システムの再構成をハイスループットに達成する新規方法論「ボトムアップジェネティクス」を提唱し、その実証として「大腸菌ゲノム相同組み換え」の再構成とそのメカニズム解析に挑戦してきた。これまでの研究において、PURE system・蛍光レポーター・大腸菌全遺伝子ライブラリからランダムに分配された遺伝子を同時にliposomeに封入し、10^7の人工細胞ライブラリを構築した。この人工細胞ライブラリをFACSで解析した結果、一部の細胞が蛍光を発し、相同組み換えを起こした人工細胞が得られた可能性が示唆された。 しかし、結果の安定性が悪く、それを改善することが課題であった。そこで、ボトムアップジェネティクスを実施する基盤を整えるために、T7プロモーターを付加した大腸菌全遺伝子ライブラリを構築し、また、相同組み換えを特異的に検出できるレポーターを構築した。また、liposome作製プロセスを改善し、より多数のliposomeが得られる条件を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究において、「ボトムアップジェネティクス」を用いた「大腸菌ゲノム相同組み換え」に挑戦してきた。実際に、PURE system・蛍光レポーター・大腸菌全遺伝子ライブラリからランダムに分配された遺伝子を同時にliposomeに封入し、10^7の人工細胞ライブラリを構築した。この人工細胞ライブラリをFACSで解析した結果、一部の細胞が蛍光を発し、相同組み換えを起こした人工細胞が得られた可能性が示唆された。しかし、結果の安定性が悪く、それを改善することが喫緊の課題であった。 今年度の研究では、ボトムアップジェネティクスの安定性を高められる条件の検討を進めた。第一の問題は、封入するDNAが線状であり、ヌクレアーゼ耐性が低く分解されやすいことであると考えられた。そこで、T7プロモーターを付加した環状大腸菌遺伝子ライブラリを構築し、ヌクレアーゼ耐性が高まることを確認した。また、相同組み換えを特異的に検出できるレポーターの設計を最適化した。このレポーターは、相同組み換えで修復されるとレポータータンパク質LacZが翻訳される設計になっている。このレポーターの設計を改善し、相同組み換えで修復された場合に初めて、SD配列を持つmRNAが転写されるようにした。これにより、不完全なmRNAにribosomeが結合してしまうことを防いだ。また、liposome作製プロセスを改善し、より多数のliposomeが得られる条件を検討した。具体的には、界面活性剤および脂質の組み合わせを再検討し、従来の数倍のliposomeが得られる条件を探索した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、ボトムアップジェネティクスの最適化および相同組み換えの再構成に向けて、4つの研究を行う。第一は、超微量遺伝子を安定的に増幅できる方法論の最適化である。ボトムアップジェネティクスにおいて、各liposomeに分配されるそれぞれの遺伝子は1コピーのみである。その1コピーの遺伝子を増幅してNGS解析にかける必要があるが、超微量DNAを増幅する実験系の安定性が悪い。そこで申請者は、キャリア核酸を用いることで、超微量核酸を安定的にNGSで解析するための方法論を開発してきた。この方法論を応用し、FACSで単離したliposomeに含まれる1コピーの遺伝子を安定して増幅できるようにする。第二に、蛍光レポーターの活性をより高感度に検出可能な系を確立する。第三に、各遺伝子の転写翻訳が実際にどの程度うまく進んでいるかを検証可能な質量分析法を確立する。最後に、「大腸菌ゲノム相同組み換え」をin vitro再現するために必要十分な遺伝子セットを決定することである。これまでの実験系最適化により、相同組み換えの必要十分条件が同定できるようになると期待される。NGS解析により必要十分条件の候補となる遺伝子セットを同定できた場合、in vitroで再現実験を行う。具体的には、同定された遺伝子セットを再構成型転写翻訳システム(PURE system)に導入し、相同組み換えが起きるかどうかを確認する。また、必要十分条件となる遺伝子セットから遺伝子を一つずつ除いた系でも実験を行い、途中で反応が停止するかどうかを確認する。これらの実験により、必要十分条件であると真に規定できる遺伝子セットを確定する。
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Causes of Carryover |
参加予定だった学会がCOVID-19の影響によって急遽キャンセルとなり、その費用が戻ってきたため。
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