2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K16123
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
久保 智広 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (70778745)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 鞭毛 / 繊毛 / クラミドモナス / カルシウム / SUnSET法 / Puromycin / 鞭毛内輸送系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、二本の鞭毛を持つ単細胞緑藻類クラミドモナスを用い、カルシウムイオン依存的な鞭毛構築の仕組みを解明することを目的とする。先行研究から真核生物の鞭毛構築にはカルシウムが必須であることは分かっていたが、カルシウムイオンが鞭毛関連遺伝子の発現を調節するのか、あるいはどの鞭毛蛋白質に影響を与えて鞭毛構築を促進するのか、などの詳しい機構は不明である。今年度は主に以下のことが分かった。
①外腕ダイニン欠損株oda1は鞭毛前駆体が枯渇しているため、鞭毛構築速度が遅い。②カルシウムイオンの有無は鞭毛前駆体の構築に影響を与えない。③クラミドモナスにおいてSUnSET法(新規合成蛋白質の標識法)を確立した。④oda1の再生鞭毛は新規の蛋白質が過剰に増加している。⑤カルシウムイオンは鞭毛蛋白質の合成を促進しない。
外腕ダイニン欠損株は、鞭毛前駆体が枯渇しているという興味深い結果が得られた。このことは、その他の鞭毛構造蛋白質を欠いている変異株でも同様であったため、一般性の高い現象と考えられる。また、これまで培養細胞やマウスに使われてきたSUnSET法(抗生物質Puromycinを用いて蛋白質生合成を生化学的に検出する方法)をクラミドモナスに適用することに成功した。その結果、カルシウムイオンが鞭毛蛋白質の合成を促進せず、むしろカルシウムをキレートした条件において鞭毛蛋白質の合成が促進されるという意外なことが分かった。この結果は、カルシウムイオンがmRNAの合成を促進するという先行研究と矛盾するため、今後の方策としては、その検証を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、外腕ダイニン欠損株oda1の鞭毛再生に遅延が生じる原因を解明するためには、多くの試行錯誤が必要かと考えていたが、古くから提唱されている「鞭毛前駆体」の概念を用いることで解決に近づいた。野生株のクラミドモナスは蛋白質合成阻害剤シクロヘキシミドの存在下では半分の長さの鞭毛を2本構築する。このことは細胞が、半分長の鞭毛2本分(すなわち蛋白質量にして完全長の鞭毛1本分)の「鞭毛前駆体」を細胞体に持つことを意味する。鞭毛が構築されるためには、鞭毛前駆体に加えて新規に蛋白質を合成することが必要である。ところが、興味深いことに、oda1はシクロヘキシミド存在下では、鞭毛構築が全く出来ないことが判明した。さらに、SUnSET法を用いて脱鞭毛後に合成された蛋白質量を比較した結果、再生鞭毛の新規合成蛋白質の占める割合がoda1では劇的に増加していることが明らかになった。以上、鞭毛構造蛋白質欠損株の鞭毛再生が遅い原因の解明に大幅に近づいたこと、また、クラミドモナスで初めてSUnSET法を用いることに成功したことを考慮して、今年度の達成度を「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究結果を基盤とし、さらに発展させるために、鞭毛前駆体の実体解明を目指す。次年度の方策を以下のようにした。 1.変異株および窒素飢餓状態の細胞を用いて、鞭毛前駆体の量が増減する条件を決定する 2.カルシウムイオンが鞭毛前駆体の構築にどのような影響を与えるかを調べる 3.カルシウムキレート剤やイオンチャネル阻害剤存在下における鞭毛構築速度を細かく調べる
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、脱鞭毛のクラミドモナス細胞を用いてトランスクリプトーム解析を行うために予算を計上していたが、SUnSET法を用いた解析を導入した結果、トランスクリプトーム解析は必要ではなくなった。また、昨年12月ワシントンDC開催のアメリカ細胞生物学会に出席を予定していたが、担当実習の都合で出席を見合わせた。そのため、上記の次年度使用額が生じた。 今年度の研究を遂行した結果、鞭毛前駆体の実体を解明することが重要であることが分かった。そのため、いくつかの鞭毛蛋白質に対する力価の高い抗体が必要となった。したがって、次年度使用額の使用計画としては、①抗体作製、②抗体購入費、③外国旅費などを考えている。
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Research Products
(9 results)