2019 Fiscal Year Research-status Report
「力」と「組織の硬さ」に着目した樹状細胞の走化性の分子機構の解明
Project/Area Number |
19K16127
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
馬場 健太郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (80836693)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 走化性 / 細胞移動 / 樹状細胞 / アクチン / クラッチ分子 / 細胞接着分子 / 免疫 / コラーゲン |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫細胞の一種である樹状細胞は、CCL19等の誘引物質の濃度の高い側へ走化性によって移動する。細胞移動の推進力発生にはアクチン線維と細胞接着分子との間を連結するクラッチ分子が重要である。しかしながら、樹状細胞のクラッチ分子は不明であり走化性の分子機構はよく解っていない。本研究において、1分子計測や走化性の解析、細胞移動の推進力の測定、原子間力顕微鏡による組織の硬さの測定などを含む最先端技術を駆使して、走化性を生み出す力と走化性を制御する組織の硬さという2つの視点から樹状細胞の走化性の分子機構の解明を目指す。具体的には、Shootin1bがクラッチ分子であるかを検証し、走化性のための推進力発生や組織の硬さによる走化性制御に関与するかを検証する。 Shootin1bがアクチン線維と細胞接着分子L1との間を連結するクラッチ分子であるかを検証するために、Shootin1bとL1の連結を阻害するShootin1b変異体を樹状細胞に発現させCCL19に向かう走化性移動や細胞移動の推進力を解析した。その結果、コントロール細胞と比べてShootin1b変異体を発現する細胞では、CCL19に向かう直線距離や移動速度、推進力が減少することが解った。これらの結果から、Shootin1bがクラッチ分子として機能し走化性移動のための推進力発生に関与することが示唆された。また、Shootin1のリン酸化を検出する抗体を用いたイムノブロット法により、CCL19刺激後にShootin1bのリン酸化が上昇することが解った。さらに、硬さの異なるコラーゲンゲルを用いてShootin1bが組織の硬さによる走化性制御に関与するかの検証が進行している。本研究成果は樹状細胞の走化性や免疫機構の理解に繋がり細胞生物学や免疫学の分野において学術的意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点までに、樹状細胞においてShootin1bがアクチン線維と細胞接着分子L1との間を連結するクラッチ分子として機能することや、Shootin1bがCCL19に向かう走化性移動のための推進力の発生に関与することを証明した。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いたコラーゲンゲルおよび組織の硬さの測定や、硬さの異なるコラーゲンゲルを用いた走化性移動の解析も進んでいる。したがって、本研究は順調に進んでいると考えられる。また、興味深いことに、CCL19刺激後の樹状細胞においてShootin1bのリン酸化が上昇することが解った。Shootin1bのリン酸化が走化性に関与する可能性がある。今後はShootin1bのリン酸化の関与も含めた樹状細胞の走化性の分子機構を調べる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 前年度に引き続き、AFMにより様々な組織の硬さを測定する。特に、樹状細胞の移動が活発に行われるリンパ節の硬さを測定しその硬さと同じコラーゲンゲルを用いて走化性移動を解析する。 (2) リンパ節へ向かう樹状細胞の移動を解析する。具体的には、野生型とShootin1bノックアウト樹状細胞を異なる蛍光色素で染色し、両方の細胞を同じ割合で混和した懸濁液をマウスのリンパ管に注入する。24時間後にリンパ節を採取しリンパ節に移動した野生型とノックアウト細胞の数を比較する。 (3) これまでの我々の研究により、神経細胞においてShootin1aのリン酸化によりShootin1aとL1の相互作用が促進されることが示された (Baba K et al., eLife 2018)。しかしながら、樹状細胞においてShootin1aのスプライシングバリアントShootin1bのリン酸化によりShootin1bとL1の相互作用が促進されるかは解っていない。そこで、Shootin1bのリン酸化を上昇させるためにCCL19刺激した後の樹状細胞の破砕液を用いて、免疫共沈降実験を行いShootin1bとL1の相互作用を調べる。 (4) 私が所属する研究室により、Shootin1aがリン酸化酵素Pak1によりリン酸化されることが示された。Shootin1bもPak1によりリン酸化される可能性がある。そこで、Pak1を不活性化する薬剤処理した樹状細胞の破砕液を用いてイムノブロット法によりShootin1bのリン酸化レベルを解析する。また、Shootin1bのリン酸化が走化性に関与するかを調べるために、Shootin1bノックアウト樹状細胞に非リン酸化型Shootin1bを発現させた細胞の走化性移動を解析する。 以上の研究により、力と組織の硬さの視点からShoootin1bを介した走化性の分子機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
・次年度使用額が生じた理由: 樹状細胞の培養に必要な生理活性物質や培養容器の購入費が当初の予定より少なく済んだため。 ・使用計画:今後の実験のための費用として使用する。免疫沈降実験に使用する抗体やPak1を不活性化する薬剤の購入費として使用する。さらに、マウスリンパ節を染色するための免疫組織化学法に使用する試薬の購入費として使用する。また、学会参加費も支出予定である。
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