2020 Fiscal Year Research-status Report
新規な網羅的定量解析系を用いた酵母の活性窒素種シグナルの総合的理解
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19K16129
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
那須野 亮 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (90708116)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 翻訳後修飾 / 一酸化窒素 / 代謝 / ニトロ化 / グルタチオン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
19年度までに同定したニトロ化修飾を受ける酵母タンパク質の内、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素Tdh3、ピルビン酸脱炭酸酵素Pdc1について、免疫沈降/ウェスタンブロット法により、ニトロ化修飾の再現性が確認された。また、Tdh3およびPdc1において、特定のチロシン残基のニトロ化が酵素活性を抑制することを見出した。Pdcは、ピルビン酸からアセトアルデヒドを合成する反応を触媒するため、NOが酵母の発酵力に影響を及ぼす可能性が示された。 一方、19年度の結果から、多くの代謝酵素のシステイン残基が細胞内ではNO依存的にS-ニトロソ化以外の修飾を受けている可能性が示された。そこで、抗グルタチオン抗体によるウェスタンブロット解析を行ったところ、多くのタンパク質が細胞のNO処理依存的にグルタチオン化(GSH化)修飾を受けることが明らかになった。また、免疫沈降法/ウェスタンブロット法によりフルクトース-1,6-二リン酸アルドラーゼFba1がGSH化されることを示した。さらに、免疫沈降/質量分析法により、Fba1のGSH化修飾部位も同定した。 上記のように、解糖系酵素がNOにより翻訳後修飾を受け、一部はこれにより阻害されることから、NO処理した酵母細胞の代謝物をLC/MS/MS解析により定量した。その結果、NO処理により、解糖系の前半部に位置しFba1の基質であるフルクトース-1,6-二リン酸が減少し、ペントースリン酸回路(PPP)の中間体である6-ホスホグルコン酸が増加した。一方、解糖系後半部のホスホエノールピルビン酸の量は、NO処理により変化しなかった。これらのことから、NO処理に応答して細胞内の代謝が解糖系からPPPへと変化している可能性が示唆された。PPPはNADPH合成に重要であるため、この代謝変化がNO耐性等に寄与する可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、19年度の網羅的解析により見出した、NO依存的に翻訳後修飾を受けるタンパク質の個別解析を行っており、当初の研究計画通りに進捗している。20年度は候補タンパク質の個別解析を行い、再現性を確認するとともに、ニトロ化修飾の意義を分子レベルで明らかにした。また、GSH化修飾についても、現在、タンパク質機能に及ぼす影響を解析している。一方、代謝物解析の結果から、これらの翻訳後修飾の生理的意義として、「解糖系からPPPへの代謝変化とそれによるNO耐性機構」という可能性が見いだされた。現在、修飾タンパク質のアミノ酸置換体発現株を用いた解析等により、これを検証している。以上のように、おおむね計画通りに進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画調書に従って進める。NOによる翻訳後修飾の生理的意義については、(1)NOによる翻訳後修飾が解糖系からPPPへの代謝変化をもたらし、NO応答・耐性に寄与する、(2)NOによるピルビン酸脱炭酸酵素の活性抑制がエタノール発酵に影響を及ぼす、の2つの仮説の検証を軸に進める。方法としては、見出した翻訳後修飾タンパク質(Tdh3, Pdc1, Fba1)の修飾部位のアミノ酸残基を置換した株を構築し、生育、NO耐性、代謝物、発酵力などを解析する。
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Causes of Carryover |
見出した翻訳後修飾(ニトロ化、GSH化)の機能については、より広範囲にその生理的機能を解析するために、RNAseqやプロテオーム、メタボロームなどの網羅的な解析を予定したが、新型コロナウィルス感染症拡大に伴うリモートワーク化等に起因して、十分に準備できなかったため、20年度は実施していない。そのため、21年度にこれらの解析を行う予定である。
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Research Products
(9 results)